95.気になる情報が次々と
「えっ、城に侵入者がいた?」
「そうそう。それでもう朝から城下町が大騒ぎになっててさ」
「だからあんなにネルディアに入る時の検査が厳しかったのね」
ネルディアに来ていきなり宿屋のスタッフからそんな話を耳にすれば、リュディガーたちもザワつきを隠せないのは当然のことである。
エスティナが言う通り、このネルディアに入る時には事細かくここに来た理由や滞在期間などを説明させられた。
いくつか何とかごまかしてこうして中に入ることはできたので、自分たちが国を追放された冒険者たちであるとバレなくて良かったとしか言いようがない。
しかし、その侵入者の話よりもアレクシアには気になっていることがあった。
『……感じる』
「何が?」
『あの青いドラゴンのと同じ魔力を、このネルディア全域から感じるんだ。わらわは精霊だからそうした魔力の違いには敏感なんだが、これは間違いないとハッキリ言える』
「えっ、それじゃあこのネルディアにドラゴンが来てるってこと?」
魔術師だからといっても、魔力のわずかな違いまではわからないフェリシテがそう質問するものの、アレクシアは首を傾げる。
『そう……だと思うんだが、それだったらもっと今頃はネルディアが大騒ぎになっているはずだろう。なのにそれがないってことは……』
「ドラゴンはすでにこのネルディアから去ってしまったってこと?」
『そうだと思うんだが、だとしたら今もまだ魔力を感じるというのは妙なものだ。ドラゴンは確かに魔物の中ではなかなかの魔力の多さを誇っているが、だからといってここまで残るようなものではないぞ?』
頭の中の疑問が尽きそうにないアレクシアだが、今はそれよりも城に侵入した図太い神経の持ち主の話の方が先だろう。
とりあえずここはハイセルタール兄妹、フェリシテとエスティナ、そしてアレクシアの三チームにわかれて情報収集を始める。
まずハイセルタール兄妹は、逃げていったグリスの足取りを追うことが目的だったのだが、それについては何も話がないようである。
「ダメね、全然手がかりが見つかりそうにないわ」
「そうだな。グリスを含めてあの傭兵集団は腕の立つ人間ばかりだから、それなりに顔も割れてしまっている。だからこそ、簡単に尻尾を出すとは思えない」
ランクが高い冒険者や傭兵になればなるほど、有名になるのは当たり前の話。
時には恨みを持っている人間から、思いもよらないところで襲われたりすることもあったりするのだ。
「実際、シャレドの奴が自分が倒した盗賊団の知り合いって奴に闇討ちをくらったことがあったからな。名前が売れるのは決していいことばかりじゃないってことだ」
「確かに。名前が売れれば売れるほど、普段の言動には気をつけなければならないのよね」
まあ、傭兵や冒険者の立場でいえば恨まれるのは当たり前の話でもあるんだが……とリュディガーがボヤいているそのころ、他の闇の装備品の情報がないかを調べていたフェリシテとエスティナのコンビは思わぬ話を耳にしていた。
「うーん、そういえば最近隣のファルス帝国の方で妙な噂があるなあ」
「噂?」
「そうそう。ファルス帝国に白い塔があるってのは知ってるだろ?」
「……あ、いや、それはちょっとわからないわね。この辺りの人間じゃないからね」
なんせ、望んでこの大陸に来たわけじゃないから。
そう心の中で呟きながら返答するエスティナに対して、今の現状を屋台の店主が話してくれる。
「そうなのか。じゃあ教えてやるよ。ファルス帝国には白くて大きな塔がそびえ立っているんだ。噂によればそれは五十階ぐらいはありそうな高さなんだが、魔力によって出入口が固く閉ざされているらしくて、今まで帝国の調査が入ることがなかったらしい」
だが、その白い塔が最近なんだかモヤがかかったかのようにボヤけてきているようなのだ。
塔がボヤけるとは一体どういうことなのだろうか?
店主もそのあたりはよくわからないのだが、なんでも砂漠の蜃気楼のように実態がボヤけてきていて、このままだといつか塔が消えてしまうのではないかという予想が学者や魔術師たちの間でされているらしい。
「つまり、白い塔を見たいんだったら早めにファルス帝国に行くんだね」
「は、はあ……どうも」
「ちなみにそれっていつごろからの話なんですか?」
フェリシテの質問に、店主の男は二人が注文した串焼きを差し出しながら簡潔に答える。
「本当につい最近だね。ここ一か月ぐらいの話だから」
「そんな最近なんですか!?」
「……わかったわ。じゃあこれお金。どうもありがとう」
少し考えこむ素振りを見せつつ代金を支払ったエスティナは、道端で串焼きを頬張りながらその内容についてフェリシテに話し始めた。




