92.団長大暴れ
『……あれだ! おいみんな、あそこを狙うんだ!!』
やっと弱点らしいものに気がついたアレクシアは、急いでそのことを人間たちに伝える。
彼女が見つけたのは、団長の額で赤く輝いている妙なひし形の石だった。
普通の人間が相手だったら、あんな場所にあんな石が張り付いているわけはない。
それに、その石から感じ取ることができる魔力の大きさから考えても、それが人間だったこの人物をこんな醜い姿に変えてしまったのだろうと容易にイメージできた。
しかし、攻撃するのにはなかなかの労力が必要となりそうな弱点である。
「攻撃しろって言われても……あそこまで攻撃が届くかどうか……」
そう、自分たちの三倍ぐらいの背丈を持っているこの団長の額を狙うには、現時点でまずエスティナとリュディガーは役立たず状態になってしまう。
となれば頼りになるのは残りの三人なのだが、唯一このメンバーの中で空を飛ぶことが可能なアレクシアは、エスティナとリュディガーもキチンと戦力にするべく考える。
『だったら、リュディガーとエスティナで奴の気を引きつけるんだ! その間にわらわたちが三人であそこを集中攻撃だ!!』
「わかった!」
作戦が始まる。
リュディガーが右でエスティナが左とそれぞれ役割分担をして、団長の両脚を狙ってそれぞれの剣を振るう。
残った三人で遠距離から、その団長の攻撃に巻き込まれないように注意しつつ頭部を中心に狙い続ける。
しかしながら、何度か額の石に攻撃が当たっているはずなのに団長の攻撃には特に変化が見られそうにない。
「ちょっとお、あそこが本当に弱点なのぉ!?」
「そうよね。全くと言っていいくらいに効いている気がしないんだけど!」
『む……』
自分の予想はもしかしたら間違いだったか?
アレクシアはそう考えるものの、わずかながら団長の動きが鈍り始めていることにも気がついていた。
やはり攻撃自体は効いているみたいだが、ちまちまとダメージを与えるのは余り効果的ではなさそうである。
ならばあの石に攻撃を一点集中させるしかないと考えたアレクシアが、団長に一気に接近して勝負を決めようと考えたのだが、それに気がついた団長の右腕が斜め上に向かって振るわれる。
『うわあっ!?』
「アレクシア!!」
突進していったところに振われてきた腕に直撃する形になってしまったアレクシアが、ものすごい勢いで吹っ飛ばされてしまった。
彼女は自分に回復魔術をかけつつ、なんとか空中で体勢をコントロールしてもう一度戻ってこようとした。
一方で、その前に繰り出された団長の足払いを目的とした右足の蹴りが船に炸裂する。
「ぐっ!?」
「あっ、やばい!!」
その蹴りをなんとか回避したリュディガーとエスティナだったが、振り抜かれた足が船体を直撃して破壊する。
続けてその足を今度は逆側にぶん回し、いったん仁王立ちの姿勢になったと思いきや、足元にいたトリスを踏み潰そうと右足を上げる。
「きゃああっ!!」
「トリス!」
「危ないっ!!」
フェリシテとエスティナが同時にトリスに飛びかかり、二人がかりで足の裏の下敷きになってしまうのを回避させることに成功した。
それは良かったのだが、今度はその後に踏み潰そうとしてきた左足が、なんと最初にこの船に乗り込んだ時にリュディガーたちが落っこちてしまった穴に直撃する結果となってしまった。
それをグイグイと引っ張って抜き出そうとする団長だが、かかとが引っかかってしまいバランスを崩して後ろに尻もちをつく結果になる。
そのまま仰向けに倒れ込んでしまった団長の頭が更に船体を破壊する結果となり、この一連の流れでいろいろな場所を破壊される結果となった船体に海水が流れ込んできた!!
「まずい!! このままじゃこの船が沈没するわ!! さっさと脱出するわよ!」
「もちろんよ……きゃっ!?」
フェリシテがいち早く浸水してきたことに気づき、彼女の言葉に反応した他のメンバーがさっさと船から降りようとしたのだが、エスティナの身体をなんと倒れ込んだままの団長の左手が掴んだのだ。
巨大化したその手に完全に握り込まれる体勢になってしまったエスティナは、必死に脱出しようと身体を捻るが全然ビクともしない。
それを見たリュディガーが駆け出し、ソードレイピアを構えて倒れ込んだままの団長の頭部に向けて勢いをつけて跳び上がる。
「大人しくしておけっ!!」
「ガアアアッ!?」
立ったままでは届かなかった、その額部分についている謎の赤い鉱石に、ソードレイピアの刃が正確に突き立てられた。
その鉱石がバギンと音を立てて破壊されると同時に、団長が苦しみながら悶え始める。
エスティナを握っていた左手の力も緩み、脱出することに成功したリュディガーたちは全員で海へと飛び込み、なんとか陸地へと上がることに成功した。
「はぁ、はぁ、はぁ……終わった……」
陸地に上がって、団長ごと沈没していく新興勢力の海賊船を見ながらトリスが呟くが、アレクシアの冷静な声がそれを否定した。
『いいや、まだ終わっていない』
「え?」
アレクシアの声に反応したトリスがふと振り返ってみると、そこには誰もが手に武器を構えた状態でこちらを見据える、この港町の住民たちの姿があった。




