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8.精霊の実力

「え?」

『そなたが魔力を持たない人間だというのであれば納得だ。ガーディアンの小型の魔物たちは、この館に近づいてくる人間や他の魔物の魔力を感知して、魔力によって現れる者だからな』

「そ、そうなのか?」


 アレクシアの言っている意味がいまいちよくわからないリュディガーだが、彼女の言い分を整理すると、どうやら自分は魔力を持っていないから小型の魔物の妨害や襲撃に出会わなかった、ということだろうと納得する。

 しかし、その理屈だとこの館の出入口の前に来たのはあのケルベロスも一緒だったので、あれには魔物は反応しなかったのだろうか?

 それをアレクシアに問いかけると、彼女は『同じことだ』と言い出した。


『あのケルベロスも、どうやらそなたと同じく無魔力生物だろう』

「そうなのか?」

『そうだ。そうでなければガーディアンたちが道をふさぐように現れるはずだからな。それなのに出なかったということは、そなたと同じく無魔力生物だということだ』


 つまり……と窓の外を見下ろしながらアレクシアは続ける。


『あれを倒してここから離れるのであれば、わらわの魔術で何とかするしかないだろう。魔術そのものは無魔力生物には効かないはずだが、それでもあの大きな怪物を倒せるだけの策はある』

「本当か?」

『ああ。そなたも無魔力生物ならわかるはずだ。薬草やポーションを大量に持ち歩いているみたいだから、その苦労は大きいはず。しかし、そなたにはそなたにしかできないこともあるはずだ』

「俺にしか……」


 何のこっちゃ、と首をかしげるリュディガーの目の前で、アレクシアはゆっくりと両手を天に向かって伸ばす。

 腰まで伸びている金色の髪の毛がフサァッとたなびき、タトゥーが彫られている膝や腕などが丸見えの露出の多い服装のまま、天に向かって己の魔力を放出する少女姿の精霊。

 すると次の瞬間、窓の外の光景が一変した。


「……!」


 声にならない驚きを見せるリュディガーの視線の先では、獲物が出てくるまでいつまででも待ち続けてやる、と居座り行為を続けていたケルベロスの足元の地面がモコモコと隆起している。

 それによってバランスを崩したケルベロスだが、驚きはそれだけでは終わらない。

 今度はこの館に続く道の両側にある木の何本かが、まるで生き物のようにグニャリと幹の途中から変形したかと思うと、鋭利で巨大なトゲとなってグッサリとケルベロスに四方八方から突き刺さったのだ。


『グガッ!?』

「うわ……」


 思わずリュディガーでさえも顔を青くしてしまうほどに、壮絶な最期を遂げたケルベロス。

 もちろんこんなことをしでかしたのは、目の前で両手を下げ始めた彼女しかいなかった。


『これでここから脱出できるだろう?』

「あ、ああ……おかげで助かったんだが、精霊というのはあんなこともできるのか?」

『そうだ。精霊によってできることやできないことは限られるが、わらわができるのは自然を操ることだ。魔術の一種でな。他には特大の雷を降らせたりすることとかもできたりするが、あのケルベロスには魔術による攻撃は効かないから、今回はこういう方法を取らせてもらった』


 人間には到底不可能と思われる方法で、どうにかこうにかここから脱出できそうだとリュディガーはすべてを飲み込むことにした。

 しかし、アレクシアの話はまだ終わっていなかった。


『それでだな、わらわの話を聞いてもらってもいいか?』

「何だ?」

『先ほどわらわはそなたに、そなたにしかできないことがあると言った。それはそなたのこれから先の人生について、かなり重要なものとなるだろう』

「……つまり何が言いたい? 俺に自分探しの旅に出ろとでも?」


 そのリュディガーの問いかけは、どうやら半分だけ当たっていたらしい。


『旅に出ろ、というのは間違っていない。しかしそなたにしてほしいのは自分探しの旅ではない。この世界の危機を救えそうな人間だとわらわが見込んだからだ』

「は?」


 なんなんだ、そのいきなりスケールが大きな話は。

 余りにも突拍子のなさすぎる話の展開に、またもやリュディガーの頭の中がパニック状態になる。

 それはアレクシアもわかっているようで、とにかく外に出て話を進めようと彼を促した。

 そして外に出たリュディガーに対し、アレクシアはこう言ったのだ


『そなたからは、伝説の匂いがする。そなたには普通ではない血が流れているだろう?』

「というと?」

『わらわにはわかる。この世界でその昔、名をはせたという冒険家のルヴィバーの血をそなたが引いているのがな』

「……そんなことまで精霊はわかるのか」


 彼女の言う通り、リュディガーはこの世界でかつて伝説の冒険者として名をはせた冒険家の子孫でもあったのだ。

 しかし、無魔力生物としてそんな先祖のことを考えるよりも、毎日を無気力に暮らすことがやっとだった彼に、少女精霊は続けてこう言った。


『そなたは旅に出る必要がある。そうしないと、世界が滅びるだろう』

「だからその意味がよくわからないんだがな。もっと詳しく説明してくれ」

『いいだろう』


 この時、リュディガーは気づいていなかった。

 そんな彼女とのやり取りを上から見つめる、複数の人影があることに……。

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