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80.転移ポイント

 一斉にロサヴェンに視線が集中する。

 もしそんな存在があるのだとしたら、極めて短時間で他の大陸への移動が可能になるのは明白だ。

 しかし、よくよく話を聞いてみるとロサヴェン曰く「使えるかどうかわからない」とのことである。


「俺がその闇の装備品を見つけた遺跡の中で、地底湖ができている場所があったんだ。普通だったら水面に自分の顔が映るはずなんだが、そこに映っていたのは間違いなくバーレンの光景だった」

「え〜? それって見間違いとかじゃないの?」


 疑わしさを隠そうともしない表情と口調でエスティナが聞くが、ロサヴェンに続いてティラストもその時のことを回想し始めた。


「いいえ、あれは本当にバーレンの皇都ネルディアの光景でした。私たちはハッキリとそれを見ましたから」

「でも、実際に私たちの目で見てみないとなんとも言えないんですけどねえ」


 トリスの表情も苦笑いが浮かんでいる。

 とにもかくにも、バーレンに移動するためにそこが使えるかもしれないという話なので、一行はそこに向かうことにする。

 その途中で、アレクシアはその地底湖についてこう考えていた。


『使えるかどうかわからないというのはあれか? もしかしたらそなたたちが水面にそのバーレンの光景を見たのは、ほんのわずかな時間だったんじゃないのか?』

「え、ええ……確かにそうですけど……」

「どうしてわかるんだ?」

『もしかすると、その地底湖は転移ポイントになっているのかもしれない。このヴィルトディンとバーレンを繋ぐために、伝説のドラゴンがそこに造ったんだろう』


 伝説のドラゴンは、それぞれが国の守護者として人間たちにはわからないようにこの世界を見守ってくれているという話がある。

 人間の言葉を理解しているだけではなく、一説によれば人間に擬態して人間社会で生活しているという話まである。

 リュディガーたちが実際にそんなドラゴンのような人間に出会ったことがないので、あくまでもうわさでしかないのだが。

 そもそも、人間とは一線を画す存在である精霊のアレクシアとこうして行動を共にしているというだけでも、普通の人間にはできないような人生経験をしていることになる。

 そんなリュディガーたちが、グレトルと戦った湖まで戻ってきてから今度はその中へと入っていくわけだが、ここは水属性の伝説のドラゴンが納めていた土地だけあってこういう場所じゃないと棲み処にできないようである。


『わらわが聞いた話では、伝説のドラゴンはそれぞれ属性が違うようでな。ヴィルトディンとバーレンを担当していたとされるそのドラゴンは、孤独を好んでいたという話だ』

「孤独を?」

『詳しいことはわらわも知らぬ。性格が暗かったらしく、引きこもってめったに人間の前には姿を見せなかったらしい。この転移ポイントを造ったのも恐らくは、大陸間の移動が面倒だったからとかではないだろうか?』


 水属性のドラゴンであるならば、それこそ海を監視していてもよさそうなのになあ、とその話を聞いていたトリスがふと思ってしまう。

 そんな話をしながら、湖のほとりにあるほら穴の中からその遺跡に行けたというロサヴェンとティラストの話を聞いて、リュディガーたちと王国騎士団の双璧の将軍たちは同じように中に入っていく。


「魔物とかは全然いないんだけど、なんとなく中が不気味なんだよ」

「それで、この最深部でロサヴェンさんが歌を歌ったら闇の装備品が湖の中から出てきたんです」

「へえーっ……」


 その時の記憶でいうと、壁に「何か歌が欲しい」と謎のメッセージが書かれていたので歌うことが趣味であるロサヴェンが湖に向かって歌を歌ったのだという。

 その結果、ロサヴェンが闇の装備品を手に入れるに至ったのだが、今回はその手に入れたポイントには用事はない。

 本当に目指すべきなのは、バーレンの光景が水面に映ったといわれている地底湖であった。


「コケがすごいわ。滑らないように気を付けて」


 自分が履いている茶色いブーツの底から感じる、岩に張り付いてヌルヌルしているコケの感触に眉をひそめながら、エスティナが自分の後ろにいるメンバーに忠告する。

 やはり湿気がすごい場所なだけあり、足元には注意しなければならないようだ。

 そうして二人の先導に従って歩いていくと、話にあった地底湖が現れた。


「うわ、ひろーい!!」

「上の湖からの水が流れ込んで、こうして地下にも湖ができたみたいね。でもお兄ちゃん、バーレンの街並みなんて映ってないけど……?」

「そうだな……」


 その広さに感激するフェリシテの横で、この地底湖の構造を分析するトリスの指摘通り、見た目はただの地底湖である。

 本当にここにバーレンの街並みが映ったのだろうか?

 事実を知っているのはこの先導してきた傭兵二人だけなので、もっとよく話を聞こうとトリスが彼ら二人の方に足を踏み出したその瞬間、ズルッと嫌な感触を自分の靴底から覚えた。


「え?」

「うお、っと!?」


 水際近くに生えていたコケで足が滑ってしまい、トリスが地底湖の中に落ちそうになるのを慌ててリュディガーの手がつかんで止めた。

 ……はずだったのだが、その彼もまたコケで足が滑ってしまう。


「うお、お、おおおおっ!?」

「リュディガー!!」

「くっ……きゃああああっ!?」


 コケは広範囲に生えていたようで、リュディガーをつかもうとしたエスティナ、そしてフェリシテもズルッと一気に湖の中に引きずり込まれていく。

 だが、話はそれで終わらなかった。

 リュディガーのパーティーが水の中に落ちていった瞬間、その地底湖がカアッと朝日を浴びたかのようにまばゆく光り始めたのだった。


 第二部 完

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