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70.繰り広げられる戦い

 覆面を取ったその下の顔は、やはりあの工場の中で戦いを繰り広げた弓使いのザヴァリーだった。

 しかし、彼はこの追いつめられている状況でも余裕がある素振りを見せている。

 なぜなら、彼にはキチンとした策があったからだ。


「お兄ちゃんやアレクシアから話は聞いているわ。さっさと武器を捨てて降伏しなさいよ!」

「ふん……」


 トリスのその一言を鼻で笑って一蹴したザヴァリーは、リュディガーたちの存在など最初からなかったかのように空を見上げた。

 バルコニーから見える清々しいほどの青空だが、その空の一点にポツンと黒い点が浮かぶ。

 そして、その点はやがて大きな影となってバルコニーへと一直線に近づいてきた。


『……まずい、あれは!!』

「なんだ?」

『ドラゴンだ!!』


 アレクシアが焦った声を上げて警告を発した通り、バルコニーへとやってきたのは一匹のダークグレーのドラゴンである。

 普通のドラゴンと比べると二回りほど小ぶりだが、それでも十分に大きい。

 そんなドラゴンがバルコニーに着陸なんてしようものなら、当然そこにいる人間たちにとってはたまったものではない。


「に、逃げろ!」

「きゃああっ!!」


 リュディガーたちはドラゴンに押し潰されまいと、バルコニーから城の中へと逃げることしかできない。

 そんな一行を尻目に、ザヴァリーは慣れた動きでそのドラゴンに飛び乗った。

 どうやらこれが彼の相棒らしいのだが、このままでは空高く逃げられてしまう。

 そうはさせるかとアレクシアが動き出し、ドラゴンの前に回り込んでその顔面に手を突き出す。

 すると次の瞬間、ドラゴンがいきなり空中でブルブルと身悶えをし始めたではないか。


『グゥルルル……!?』

「なんだ、どうした!?」


 それまで余裕のある態度だったザヴァリーも、相棒のドラゴンの様子に表情を変化させた。

 そして、ドラゴンが翼をはためかせるのをやめざるをえなくなってしまったことで、大空へと逃げる計画が破綻し始めた。

 もちろんそれを黙って見ているだけのリュディガーたちではなく、まずはトリスがザヴァリーに向かって矢を射る。

 それは運悪く暴れるドラゴンの翼に弾かれてしまったのだが、その横でさらに高度が落ちるドラゴンに向かって駆け出したエスティナの姿があった。

 彼女はバルコニーに落ちてきたドラゴンに乗っているザヴァリーに向かって、迷いなくロングソードを突き出した。


「ぬぐっ!?」


 アレクシアとドラゴンにばかり気を取られていたことで、迫りくる凶刃に反応が遅れてしまったザヴァリーは、これ以上ないぐらいに見事にエスティナに脇腹を突き刺されてしまう。

 さらに、そこに追撃で撃ち出されたフェリシテのエネルギーボールがザヴァリーに直撃し、そのエネルギーで吹っ飛ばされてバルコニーに落ちる彼に向かってリュディガーが駆け出した。


「はああああっ!!」

「ぐふっ……!」


 ここでザヴァリーを殺してしまうと自分たちの無実が証明できなくなってしまうので、弓を持てないようにするために彼の右肩を的確に狙った。

 そしてとどめの前蹴りをザヴァリーの顔面に入れて、ようやく今回の事件の真犯人の一人目を捕まえることができた。


『まだ戦いは終わっていないぞ!』

「わかっている!」


 アレクシアはアレクシアでドラゴンをさらに痺れさせて完全に制圧させることに成功していたのだが、まだもう一人の男……あの洋館で女たちと対峙していた敵が残っているはずだ。

 しかし、その男とアレクシアは出会ったことがないために魔力を感知して追いかけることができない。

 ならばどうしたものかと、遅れてやってきた騎士団の団員たちにザヴァリーを任せて考える一行だが、その時その騎士団員たちに緊急の魔術通話が飛び込んできた。


『おいっ、中庭で怪しい奴を囲んでいる!! 応援を頼む!!』

「この声は……ヴォンクバート近衛騎士団長?」


 先ほど、地下牢から出た時に挟み撃ちにしてきた双璧の将軍のうち、背の高い方の黒髪の近衛騎士団長が不審者を囲んだらしい。

 リュディガーたちは全員ここにいるので、不審者というならば間違いなく自分たちとザヴァリー以外の誰かになる、と確信した一行は中庭へと急ぐ。


「怪しい奴って、お前たちが会ったもう一人の幹部みたいな奴か!?」

「多分そうだと思う。さっきの弓使いがここにいたんだから、あの男だってここにいたっておかしくないわよ!!」


 闇の装備品だけはなんとしてもあの連中に渡すわけにはいかない。

 同じく闇の装備品を持っているエスティナが決意をあらわにしつつ、リュディガーたちとともに中庭にたどり着く。

 しかし、そこで見たのは思いもよらない光景だった。


「……これは!?」

「うそ……!」


 絶句するリュディガーとエスティナをはじめとした一行の目の前に現れた光景は、多数の騎士団員が地面に倒れ伏してピクリとも動かなくなっている地獄絵図。

 そしてその状況を作り出したと思わしき男の姿が、その向こう側からゆっくりと近づいてきていた。

 リュディガーの仲間の女たちにとって因縁のある男、ロングバトルアックス使いのザレイリウスの姿が……。

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