61.二人の傭兵
「さて、お前たちの目的を教えてもらおうか」
あの人型の大型兵器は、なんと人が乗り込んで操縦できる未知の兵器だった。
胸、もしくは背中の部分から乗り込んで、その部分にある操縦室でレバーを握ってコントロールするという優れものらしいが、それもこうして動かなくなってしまってはただの大きな鉄の塊だ。
操縦室に乗り込んで茶髪の男を引っ張り出したリュディガーたちは、緑髪の男とともにロープで縛りあげて尋問を開始する。
だが、緑髪の男の口からとんでもない名前が出てきた。
「ロサヴェンさん……喋っちゃだめですよ」
「もちろんだ」
『ロサヴェン……? おい、そなたは今、ロサヴェンといったか?』
その名前で思い当たることといえば一つしかなかった。
世界中にその名前をとどろかす傭兵であり、今のリュディガーたちが必死になって追いかけている男の名前ではないか。
まさかあの黒ずくめの集団を率いて、リュディガーを退けた男がロサヴェンだと?
その衝撃にリュディガーたちが唖然としていると、当の茶髪の男……ロサヴェンが口を開いた。
「ああ、俺がロサヴェンだが」
「ええっ!? 私たち、ずっとあなたを探してたのよ!!」
「部下がいるって話も本当だったらしいわね」
フェリシテのその一言で、リュディガーたちの脳裏にはここに来るまでに通りかかった集落での警備兵からの情報が思い起こされる。
『その部下ってどんな人間だったんです?』
『ええっと……緑髪の若い男の方でしたよ。お二人の様子を見た限りではかなり親しげに話している様子でしたので、それなりに長い付き合いのある方なんじゃないですかね?』
この一緒に縛り上げている緑髪の男こそ、その部下で間違いないだろう。
しかし、その二人がどうしてあの黒ずくめの集団と一緒にいたのだろうか?
それに今しがたリュディガーたちによって倒された、この大型兵器は一体なんなのだろうか?
聞きたいことはまだまだありすぎるのだが、ロサヴェンたちの方もリュディガーたちに聞きたいことがあるらしい。
「それで、どこから俺たちの話を聞いた? エスヴェテレスの人間なんだろ?」
「何? 俺たちがエスヴェテレスの人間……?」
「ええ、そうとしか考えられません。あなたたちがエスヴェテレスから派遣された刺客でなければ、私たちを邪魔する理由が見当たりませんから」
「ちょ……ちょっと待って。勘違いしていないかしら?」
待て、何か話が噛み合っていない。
どうやら先に自分たちの誤解を解く必要がありそうだと考えたリュディガーたちは、話せる部分に絞って自分たちの事情を説明し始めた。
「……というわけで、私たちはこの大陸に観光にやってきたのよ」
「そうなのか。しかし、それにしては手荷物が少ない気がする」
「移動するなら荷物は最小限にまとめなきゃね。さぁ、次はあなたたちの事情を説明してもらうわよ」
エスティナが腕を組みつつそう言えば、ロサヴェンと緑髪の男は顔を見合わせた。
「わかった。俺は傭兵のロサヴェン。こっちは俺と長い付き合いの同じく傭兵のティラスト」
「ティラストです。よろしく。私たちはとある潜入任務を請け負っています」
「潜入?」
傭兵は雇い主次第で敵にも味方にもなる存在であるが、この二人がいうにはあの黒ずくめの集団に潜入していたらしい。
そしてその最中にリュディガーたちと出会い、敵と誤認して襲いかかってきたとのことだった。
そこまでは納得できた一行だったが、それではこの大型兵器はなんなのか?
それについてはティラストから説明がされる。
「これは今回、とある人物から任務遂行のために貸与されたものです」
「誰からだ?」
「それは言えません。こちらにも機密事項がありますから」
その点については話してくれなさそうなのだが、リュディガーたちにはこの大型兵器の出どころがどこからなのかがだいたい見当がつく。
しかし、まだ確証ができないので残っている二つの質問を一気にぶつける。
『それでは二つの質問をさせてもらう。まず一つ目は、そなたたちは潜入任務だと言っていたが、なぜあの黒ずくめの集団と一緒にいた? そしてもう一つは、茶髪のそなたが闇の装備品を手に入れたという話を聞いたんだがそれは本当か?』
「……!」
アレクシアの質問に、ロサヴェンの表情が変わったのがわかった。
だがその二つについても機密事項らしく、二人は固く口を閉ざして喋ってくれそうにない。
となれば別のやり方でなんとか聞き出すしかなさそうだと考えたアレクシアは、ここでとんでもないことを言い出した。
『ふむ、だんまりか。ならば心の中を見せてもらうとしよう』
「えっ?」
「心の中……見る?」
ロサヴェンやティラストのみならず、リュディガーたちもアレクシアのセリフに驚きを隠せない。
精霊というのは人の心が読めるのだろうか?
そんな人間たちの驚きを尻目に、アレクシアは縛り上げているロサヴェンの額に右手の人差し指を当てて目を閉じる。
そしてブツブツと何やらを呟くと、ふーむと頷いて指を離した。




