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5.洋館

(あ、あれは……!?)


 走り続けるリュディガーの視線の先に、見慣れぬ洋館の入り口が見えて来たのはすぐのことだった。

 若干上り勾配になっている一本道を進み、うっそうとしている森の中を抜ければもうその入り口は目の前だったからだ。

 年月が経過して至る所にひび割れや汚れがあり、既に山に食われかけているといっても過言ではなかった。

 そんな当時のこの洋館の豪華さの面影を残している部分らしい、赤茶けた両開きのドアがリュディガーを出迎えるのだった。


(魔物がわんさか出てくるって言ってた館はこれか!?)


 いや、それはないだろう。

 騎士団員たちが言っていたその情報が正しいとするのなら、魔物が全然出てこない時点でここの館はハズレだ。

 しかし、逃げ込めそうな場所があるのは助かった。

 そう考えて、リュディガーはすがるような気持ちでそのドアの取っ手に手をかけてみた……その瞬間!


「うぉ……っと!?」


 長い年月の中で老朽化していたのだろうか、取っ手に手をかけた瞬間にバキッと言う音がしてその取っ手が壊れてしまった。

 しかしドアは開いてくれたので、リュディガーは迷わずその中に入り込んでドアを閉める。

 ケルベロスは身体の大きさから中に入って来られず、そのままドアの前で待ち伏せ作戦に切り替えるしかなかった。


「はぁ、はぁ……とりあえずこれで一安心だが……)


 ケルベロスに出入り口に居座られていては、正面玄関側からの脱出は不可能である。

 だったら中を見てみつつ、別の出入り口を探そうということで、リュディガーは生物の気配を探りながら慎重に進んで行く。


(小型の魔物の気配すら何もない。だったらこの洋館は一体なんなんだ? うわさで聞いている魔物の洋館とは違うようだが)


 首を傾げつつ、リュディガーは出入口の痕跡を見逃さないように洋館の中にブーツの音をコツコツと高く響かせながら進む。

 洋館の中は明かり取りの窓が至る所に設置されているので、たいまつや魔力の光を利用する手持ちランプなどの明かりに頼らなくとも進んで行けるようになっている。

 しかし、それは太陽の光が出ている時間帯限定の話だ……とリュディガーは考えていた。


(夜になる前にここから出なければ、真っ暗で何も見えなくなりそうだ)


 まだまだ日没までには十分な時間がありそうだが、モタモタしている時間もなさそうだと、窓の外に見える景色を見ながら洋館の奥に進む。

 といっても、この洋館は森の近くにあるせいかそこまで広い場所ではないようで、奥の方にはたった一つの大き目のドアがあるだけだった。

 そしてそのドアの向こう側は、リュディガーのイメージとは若干違うものになっていた。


(……ありゃ?)


 その部屋には大きな吊り階段がかかっており、まだ二階部分もあるらしい。

 まだ探索出来る場所や物があるかもしれないと考え、その吊り階段で二階へと上がって行くが、まだ見慣れぬフロアであるが故に何があるかは全く分からない。

 そこでふと気が付いたことがあった。


(ここの洋館は長い間、誰も足を踏み入れてなかったにしてはそんなに汚れていない……)


 確かに小物や調度品の類にはホコリが溜まっているものの、長い時間ここが放置されていたとは思えないぐらいの状態の良さで洋館が保存されている。

 その状態に違和感を覚えながら、リュディガーは吊り階段を使って上がった先で思わぬものを見つけることになるのだった。

 吊り階段を上がった先には一本の細長い通路があり、ドアが左右に一つずつと正面の突き当たりに一つだけと、二階のフロアは部屋数が全部で三つと少なかった。

 左右のドアのうち、一つの先は倉庫になっており特に目ぼしいものは無かった。

 もう一つの先は客間らしき場所であり、応接セットの様なテーブルと椅子に大きな窓という、応接室をイメージさせる造りになっていた。

 そして最後に通路の突き当たりに存在しているドアを開けた先は、横に広い造りになっている部屋だった。

 だが、問題はそのドアの先だった。


「……何だ、こりゃあ……」


 思わずリュディガーが絶句してしまうその物体。

 広い部屋の中央には明らかに怪しい大きな立方体状の木箱が一つ、これまた怪しい紫色の光を出しながら鎮座している。

 一体この中から何が出て来るのだろうか。

 そこまで考えて、ふとリュディガーは木箱に近づく足を止めた。


(いや、うかつに触らないでおこう。何が出てくるかわからないからな)


 あくまでも自分は別の出入り口を探しに来たのだし、ここで変なものに触って余計なトラブルを招くのはよくない

 冷静にそう判断して引き返そうとしたリュディガーだったが、トラブルは木箱の方からやってきたのだった。

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