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51.強制国外追放状態

 アレクシアが発動した転移の魔術によって、リュディガーたちは全く見知らぬ土地へと出てしまったようだった。

 周囲には木々が生い茂っているのでここは森か林の中、もしかしたら山の中かもしれないので、まずはそれをアレクシアに問いただすリュディガー。


「いきなり無茶なことをしてくれたもんだ! 俺たち、どこに飛ばされたんだ!?」

『ここはヴィルトディン王国の森の中だ。ここだけにわらわが身を隠すための転移ポイントを作っておいたんでな。そこに転移させてもらった』

「ヴィルトディンなんて俺、人生の中で初めて来たんだが……」

「私もー。お兄ちゃんと旅行で海の外に出たことはあるけど、さすがにこんな遠くに来たことはないわね」


 ずいぶん遠くまで飛ばされてしまったもんだと思いながらも、心配なのはイディリークからの追っ手が来ないかということである。

 リュディガーがそれをアレクシアに伝えると、彼女は自信ありげにこう言ったのだ。


『大丈夫だ。転移した位置を知られないように魔力の目くらましの術をかけてあるから、今のところ魔力から行き先を辿られる心配はない』

「だが……俺たちはしばらくイディリークには戻れそうにないな」


 リュディガーに続いて、トリスとフェリシテも同意見を口にする。


「うん……バルドさんとの連絡も控えないとね。いくら痕跡を残していないとはいえ、イディリークの騎士団は血眼になって私たちを捜すはずだから、いくらお兄ちゃんと私が一番信頼のおける友達だといっても騎士団や警備隊とも関わりがある以上、むやみに連絡は取れないわよ」

「そうね。私も騎士団とのやり取りはしないようにしないと。魔力の位置をたどられたりしたら今度こそおしまいだわ」


 そこでエスティナがフェリシテに一応確認しておく。


「ねえフェリシテ、その騎士団の支部とかって他の国にあったりするのかしら?」

「ううん、ないわよ。もっと大きな国の軍隊だったら他国にも駐屯軍があると思うけど、イディリークはないわ」

「そう。それじゃそっちに連絡が行って追われる心配はなさそうね」


 とにもかくにも、謎の情報提供者のおかげでとんでもない事態になってしまったリュディガーたちは、この降り立ったヴィルトディンを起点にして自分たちの無実を晴らし、イディリークへと戻るまでの長い旅路をスタートするしかなかった。

 いわば国外に追放されてしまったのと一緒であり、無実が晴れない限りイディリークに戻ったら処刑は免れないだろう。

 フェリシテもエスティナも何度か訪れたことがあるみたいなのだが、このメンバーの中で最もヴィルトディンのことをよく知っているのはここを拠点の一つにしているアレクシアのようなので、一行はまたもや精霊の先導で進むことになった。


「王都まではどれくらいの時間がかかるのかしら?」

『ここからだと遅くても一日半ってところだ。結構近いだろう?』

「でも、馬を置いてきてしまったのよね……」


 エスティナの言う通り、この先でまたどこかで馬を借りなければならないだろう。

 だが、その謎の情報提供者のことだったりいろいろと他にも情報を集めたりしなければならないので、結果的にそれが一行の王都への到着を遅らせる原因となっていく。

 そしてそれ以外にも、王都クリストールへの道のりをさえぎる存在が出てくることをこの時点での一行はまだ知る由もなかった。


『このままずっと街道を進んでいけば港町のルバーブに辿り着くから、そこまでさっさと行くぞ』

「ずっとってどれぐらいだ?」

『うーん、二十分ぐらいか』


 一行がアレクシアの先導に従って森を出て、街道を歩き始める。

 港町までそれぐらいならどうということのない距離なので、まずはそこまで行ってからいろいろとこれからの予定を練ろうと考える一行。


『そなたたちはこのヴィルトディンのことをまだまだ知らない訳だから、食事をしながら説明した方が良いだろう』


 そう……特にリュディガーとトリスはまだまだこのヴィルトディンのことがほとんどわからない状態だ。

 なのでその港町に辿り着き、まずは腹ごしらえということで一行は酒場へと直行。


「どんなものを食べたいのかしら?」

「俺は特にこれといってないが、この先まだまだかかるんだったら腹に溜まるものがいいかな」

「わかった。それならお肉中心にメニューを選んでおくわね。その間にこれをテーブルの上に広げておいて」


 そう言いながら、エスティナは荷物の中からバサバサと音を立てて大きな地図を取り出した。

 それを受け取ったリュディガーは、店員を呼びつけて料理を注文するエスティナを横目にテーブルの上に地図を広げていく。

 料理が済んでからでも別に良いんじゃないのか、と心の中で突っ込みながらも彼女の言う通りに地図を広げて準備するリュディガー。

 その世界地図には海に囲まれたいくつもの陸地が描かれている。これは世界中を回っているというエスティナにとっての必需品とのことである。


「とりあえず、俺たちがいる今の場所ってどこだ?」


 困った顔つきのリュディガーを見て、エスティナは広げた地図の一点を長い人差し指でトントンと差した。


「ここが今の私たちがいる港町。これは世界地図だから細かい所まではカバーしきれてないけど、大体の位置なら私もわかるから任せて」

「ああ、そうなのか」


 エスティナの指を見て頷いてから、リュディガーはそのまま地図に目を落としたまま考え込む。

 こうやって目の前に「世界地図」を広げられてしまうと、やはりハッキリと「違う大陸に来てしまった事実」に脳がパニックに陥りそうになる。

 だが、ここに来るまでの時間の中でいろいろと濃密な体験をしてきたためか、さほど驚きはしなくなった。慣れは怖い。

 そう思うリュディガーだが、いざそう考えてみると同時にある疑問が湧き上がって来た。


「もしイディリークに戻れないってなったら、嫌でもこの外の世界の生活に順応していかなければならないんだよな……」


 そう、まだ「イディリークに帰れる」と決まったわけではない。

 そもそも今回の事件の手かかりがまだ何も見つかっていない以上、外の世界に慣れて生きていくしかリュディガーとトリスの術はないのだ。


「でも、絶対に帰るっていう気持ちは持ち続けてなきゃいけないわね」


 こんなことに巻き込まれてしまったがゆえに、自分たちの無実は必ず晴らす。

 それだけが今のリュディガーたちの原動力だった。

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