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4.予期せぬ遭遇

「魔物の館?」

「ああ。魔物が最近西側の方で出没していて、その巣になっているのがその館らしい」


 騎士団の団員の話によると、アクティルの西側にある山の麓に小さめの洋館が発見されたのだが、その周辺には魔物が大量発生しているらしく、なかなか調査が進んでいないとのことだった。

 さらに言えば、最近その山を根城にしているらしい盗賊団も現れているらしく、それも相まって調査が進まないのだとか。

 だが、騎士団からのその情報はリュディガーにとって非常にタイムリーなものとなった。

 なぜなら、騎士団の特訓を受けにくる前に冒険者ギルドに立ち寄って求人を選んだ結果、ちょうどその西の山の近くにある薬草を採集してくる依頼を請け負っていたからだった。

 それを騎士団の人間と情報共有して、素早く採集して帰ってくると約束してからリュディガーは現地へと向かった。


(団員たちの話だと、小型の魔物が群れをなして襲いかかってくるって話だったから、集団相手だと俺も危険だな)


 例え攻撃されようとも最小限の反撃で、なるべく相手にしないのが一番だと決め、リュディガーはさっそく薬草の採集に取りかかり始めた。

 どうやら採集場所の周辺はその魔物たちのテリトリーではないらしく、リュディガーも集中して薬草を集めることができている。


(というか、そもそもその洋館がどこにあるのか知らないしな、俺は)


 依頼でこちらに来ることは余りないので、リュディガーはこの辺りの土地勘がそれほどないのである。

 それでも依頼であるならばしっかりやり遂げるのがリュディガーのポリシーなので、黙々と薬草を集めていた彼だったが、そんな彼の後ろからのっしのっしと重苦しい足音が聞こえてきたのはその時だった。


(……ん?)


 そのただならぬ気配に後ろを振り向いたリュディガーの視界に飛び込んできたものは、事前に騎士団で聞いていた情報とはまるで違う魔物の姿だった。


「グルルルルゥ……」

「な……なっ!?」


 見かけるのは久々だが、まさかこんな場所で出会うなんて思いもしなかったその存在。

 三つの首を持っている犬の怪物として、超がつくほど有名なその怪物にそっくりなこの動物。

 リュディガーが見上げるその視線の先。

 そこには口の端からヨダレを垂らし、今にも飛び掛かって来そうなその獰猛な表情でリュディガーを見つめる一匹の動物の姿があった。


(ま、まずい……)


 傭兵として幾度となく戦った経験もあるリュディガーですら、この状況は明らかに自分にとって絶望的に不利だと感じていた。

 例え、今の自分が魔術を使えたとしても勝つのは難しそうである。リュディガーは今、まさにそんな動物と対峙していた。

 更に言うなら、この動物にリュディガーは見覚えがあった。


(こいつ……もしかしてさっきの……)


 三つの首を持ち、約三メートルの高さぐらいといった感じの、人間の自分より明らかに大きい身体をして、身体の後ろからチラチラと見え隠れしている尻尾は不気味にユラユラと揺れている。

 それは魔物の中でもトップクラスに危険なケルベロスだったのだ。

 自分の目から見てもすぐに分かってしまうぐらいに殺気立っている目の前のケルベロスから、一体どうやって逃げ出すべきか?

 頭を必死になって回転させながら、リュディガーはチャンスを探る。


(足の速さは図体がでかいからこいつが有利……足場も悪いから更に俺は逃げにくい。それに地の利もこの山をテリトリーにしているであろうこいつにある……つまり……)


 つまり打つ手は無さそうだ。それはすなわち死を意味する。

 そんなリュディガーの悔しい心境を読み取ったのか、ケルベロスは息を大きく吸い込んで何かの準備をし始めた。

 本能がリュディガーの脳に警鐘を鳴らし始める。


「ちっ!!」


 咄嗟にリュディガーがほぼ真横に飛んでそのまま転がって受け身を取ったその瞬間、今まで彼が立っていたその場所を業火が覆った。

 ケルベロスは口から炎のブレスを吐き、リュディガーを焼き殺そうとしたのである。


(くっそぉ!!)


 悪態を心の中で呟いても、この危機的状況は変わってくれそうにない。

 エサにされるのだけは死んでもごめんだ、と吐き捨てたリュディガーはケルベロスに背中を向けて一目散に駆け出す。


「はぁ、はぁ、はぁ……くっ!!」


 息を切らせながら山道を駆け抜け、時折り岩に付着しているコケや生えている草や木の枝に足を取られて転びつつも、すぐに立ち上がってリュディガーは走り続ける。

 アクティルまで辿り着いてしまえば、町の人間に助けを求めることが出来るかもしれない。

 そんな思いで、キズと汚れだらけの身体になってもリュディガーは炎や体当たりをギリギリで回避しつつ走り抜けていくが、その追いかけっこは唐突に終わりを告げることになってしまう。

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