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43.攻撃しなかった理由

「っ!?」

「きゃあっ!?」


 ソードレイピアはフェリシテの横を掠めるラインを描いて一行の後方に落ちる。

 狙いは外れたが黒ずくめの集団の気をそらすには十分な効果があったので、その気がそれた隙を狙って今度はアレクシアが動く。

 更に、それを見たフェリシテが全力で自分を拘束している男の顎に頭突きを食らわせる。


「ぐほっ!?」


 人質からまさかの攻撃を、しかも人体の急所の一つである顎に食らってしまい、一瞬意識が飛ぶ程の衝撃に襲われる男。

 彼が怯んだところに、今度はエスティナがフェリシテをとらえている男に全力の飛び蹴りをかましてぶっ飛ばす。


「ぬうおっ!?」

「これで終わりよ!!」


 上手く着地したエスティナは、そのまま立ち上がってこられる前にその男の胸にロングソードを突き刺す。

 残りの黒ずくめの集団もアレクシアによって一掃され、この夜の戦いもようやく終わりを迎えたわけだが、まだやるべきことは残っている。


「すまなかった。驚いただろう?」

「驚いたなんてもんじゃないわよ! 助けてくれたのはうれしいけど、まさか私に向かって武器を投げてくるなんて……一歩間違ったら死んでたわよ!」

「本当にすまない。フェリシテを助けるためにはあれしか思いつかなかった」


 フェリシテに弁明と謝罪をするリュディガーがいる一方で、トリスとエスティナがアレクシアに尋問を始める。


「ねえ、どうしてあのオオカミには魔術で攻撃しなかったの?」

「それは私も思った。あなた、確か無魔力生物のケルベロスを倒したのよね? まさかあのオオカミもそれと同じだったの?」


 自己紹介などを兼ねてお互いのことを話しながらここまで進んできた一行は、リュディガーがアレクシアに出会った経緯も全員が把握している。

 なのでそれに照らし合わせたエスティナの質問だが、アレクシアはなんだか歯切れが悪い回答を始めた。


『いや、あのオオカミは無魔力生物ではなかった』

「じゃあどうして?」

『そもそも魔術が効かなかったんだ。何かしらの改造をされている生物なんじゃないかと思う』

「えっ?」


 改造生物? そんなものは今まで聞いたことがない。

 エスティナとトリスが顔を見合わせる一方で、話が終わってこっちの会話に入ってきたリュディガーとフェリシテもそこに食いつく。


「それは何なんだ? 魔術が効かないように改造されていたとでもいうのか?」

『ああ、どうもそうらしい。わらわが何度かエネルギーボールを当ててみたが、まるで効果がなかった』

「……それって、そんなのがもし町とか村を襲っていたら大ごとだったじゃない!」


 フェリシテが思わず青ざめるのも無理はない。

 物理攻撃しか効果のない、あんな大きな魔物を倒せるのはそれこそ騎士団や警備隊でも大勢の人間が必要になる。

 もちろん、無魔力生物と違って自然に生まれてくるようなものではないとしたら、あのオオカミは……。


「まさか、この倒した黒ずくめの集団の仲間!?」

「というよりも、改造生物を兵器として持っていたっていう方が正しそうね」


 エスティナもトリスも青ざめるが、そんな中でもリュディガーは冷静だった。


「よし、まずはあのオオカミやこの野営地を調べるぞ。テントの中を手分けして探そう。それからアレクシアはオオカミを調べてくれ」

『わかった』


 絶対にここには何かがある。

 そう思ってすでに死体だらけとなっている野営地を隅々まで調べていくと、やはりオオカミに関する資料が出てきた。


「これ見てよ。お兄ちゃんやアレクシアが言っていた通り、オオカミを改造して実験させるつもりだったらしいわ」

「ええっ? こっちの資料にはプロトタイプ一号って書いてあるんだけど……じゃあ他にもこういうのがいるってことなの!?」


 トリスとフェリシテが見つけた資料、そしてアレクシアの分析によって判明したことは、オオカミが何者かの手によって改造されたうちの一体だったということだった。

 そしてそれをこの平原に陣を張ることで実験させてから、何かしらの目的に使用させるつもりだったらしい。

 その目的の答えは、フェリシテとリュディガーが別のテントの中から見つけ出した。


「これこれ! 闇の装備品を封印している場所はあちこちにあって、魔術によるトラップも多数あるから、物理攻撃しか効かない魔物を実験して実用化するって!」

「しかも、それを量産させるのに成功したら武器商人にも売るつもりだったらしいな」


 生物を武器に改造して売りつける。闇の装備品を手に入れるための道具にもする。これはまさに、外道の行ないと言ってよかった。

 そして、そんなことをやろうとする人物はアレクシアに心当たりがあった。


『奴しかいないな。ニルス……裏の世界の支配者しか、こんなことを考える人間はいない!』

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