410.黒いドラゴンとニルスの思惑
一方そのころ、城の屋上にいるニルスは目の前にいる黒い大きなドラゴンと会話をしていた。
『……本当にこれで、余の看視しているヘルヴァナールと向こうのエンヴィルーク・アンフェレイアが繋がるのだな?』
「そうですよ。私は何回も計算をしてこの方法を編み出しまして、実際にその方法で向こうのドラゴンたちや師匠にも手伝ってもらって、結果的にこうしてこちらの世界に渡ってきたのですから」
屋上にはニルスと黒い大きなドラゴンしかおらず、一匹と一人の目の前には大きな空間の裂け目が出来そうになっている。
これでようやく二つの世界が一つになるのだということで、黒いドラゴンのイークヴェスは今までの努力が報われる時が来たのだと実感していた。
『これでファーレアルも……この世界と向こうの世界を創り出した金色のドラゴンも納得してくれるのだろうか?』
「してくれますとも。そもそもあなたたちの祖先が出会ったファーレアルと、今のファーレアルは別物です。あなたたちのように代々その役目を受け継いでいる世襲制なのですから、創始者のファーレアルとは考えが違って当たり前です」
『ならいいのだが……向こうのドラゴンたちも納得してくれるのだろうか』
元々は自分たちの祖先と向こうのドラゴンたちの祖先がいざこざを引き起こした結果、分離したこの二つの世界。
それが元に戻ってくれるのなら嬉しい限りなのだが……と考えているそんな黒いドラゴンが思い描いている未来と、ニルスが思い描いている未来はまた違うものなのだが。
(ふふふ……愚かなドラゴンですよ。向こうの世界とこちらの世界が一つになれば、それだけで私の目的も大きく進みます)
自分に騙されているとも知らずに、こうして自分の魔力を使ってエンヴィルーク・アンフェレイアと分離されていたヘルヴァナールを繋げようとしてくれているイークヴェスには感謝しかないニルス。
この大きな裂け目で向こうの世界と繋げてから、この城に溜めに溜めた黒いドラゴンの魔力を一気に解放して天に大きな裂け目を作る。
そして一つになった世界を自分の師匠と一緒に征服し、自らが世界の神となるという壮大な計画。
(ですがまず、そのためにはそれを邪魔する異分子を排除しなければ……)
魔力の注入の続きはイークヴェスに任せることにして、屋上を後にしたニルスは一階層下の最上階の部屋に戻り、魔術によって城の中のあらゆる部分を映し出すことができる大きな四角い水晶に目を向ける。
その白い水晶に映し出されているのは、この最上階に向かって進んでくるリュディガーたちの姿と、地下の最深部に向かって進んでいるアレクシアたちの姿だった。
(なるほど、さすがにやはり並の実力ではないみたいですが……それではこれはどうでしょうね?)
そう心の中で呟きながら、ニルスは水晶にペタッと右手の手のひらを当てて魔力を送り込む。
すると無数に浮かび上がっている各場所の光景のうち、リュディガーたちの向かっている八十階までの階段の上におよそ五十人ほどの獣人たちが青白い光に包まれながら現れた。
(今まで苦戦していた獣人たちですからねえ、さすがにこれだけの大人数が相手になると体力もかなり使いますでしょうし……)
それに八十階にも九十階にも番人を設けているのだから、ここにくるまでに力尽きてしまってもおかしくはない。
それよりも心配なのは、リュディガーたちがここに辿り着くまでに果たして魔力の充填が間に合うかどうかである。
(向こうの世界とこちらの世界を繋ぎ止めておくためには、もっと多量の魔力が必要です。とにかくあの連中がここにくるまでに時間を稼がせてもらわなければなりませんからね……)
それに、もう一方の魔術師たちが向かった地下の魔力砲に関してもキチンと対策はしてあるので時間稼ぎはできる。
(確かあの魔力砲は、ここで生まれ育ったというエスティナのペンダントがなければ封印を解けないとのことでしたが、それだけで済ませるわけがありませんからねえ)
事前にイークヴェスから、エスティナがこのゼッザオで生まれ育った人間だと聞かされていたニルスは当然ペンダントの秘密についても知っていた。
だからこそ、地下の最深部に向かったその一行がもし封印を解くようなことがあれば、それに呼応して発動する罠を仕掛けてあるのだ。
もちろんそんな罠が仕掛けてあることなど知る由もないアレクシアたちは、ロックスパイダーの巣を抜けてようやく最深部まで辿り着いていた。




