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40.やっぱり怪しい

「そ、それは……無理だ」

「何でだよ?」

「今、山脈の方では大型の魔物が発見されたって話があるんでな。その討伐をしに我等もそこに向かうんだ。夜行性の魔物だっていう情報があるから、ここで夜になるのを待って進軍するんだ」


 最初こそ明らかに動揺した返答をしていたものの、徐々に落ち着きを取り戻したらしい黒ずくめの一人がそう説明する。

 しかし、トリスがその返答に対して疑問に思ったことがあるので今度はそれを質問してみる。


「待ってよ。確かこのパールリッツ平原を始め、東の方面では魔物の討伐が進んでいると聞いているわ。そんな時に突然大型の魔物が現れたというのか?」


 魔物の討伐を定期的に行なっているのであれば、他の魔物はそういう討伐が自分の身に降り掛かって来るのを恐れて他の場所にテリトリーを移すようになるという。

 しかも、大型の魔物というのであればどんな魔物なのかを説明できるはずだし、それが夜行性だというのなら昼間の内に少しでも進んで山脈で罠を張るなり待ち伏せをして用意をするべきなんじゃないかと考えるリュディガーたち。

 それを問い詰めてみようとしたものの、黒ずくめの一人は明らかにしどろもどろの逆ギレを始める。


「う……うるさい! 話は終わりだ、さっさと立ち去れ!」


 他の黒ずくめの集団も手伝って強引に一行を押し返し、野営地から無理やり遠ざけられてしまった。

 しかし、そうまでされると素直に立ち去る気にはなれない。


「ねえ、あの黒ずくめの人たちは……」

『ああ、凄く怪しい。これは絶対に何かあると言っていいだろう』


 魔物討伐も橋の建設も、そして採集の依頼も全て頭の中から霞むぐらいに怪しいこの黒ずくめの人間たちの行動。

 こうなってしまったら、何があるのかを確かめないと気が済まないその気持ちを最初に出したのがフェリシテだった。


「仕方ないわね、騎士団に報告もしなければならないんだから、何があるのかを確かめるまで引き下がるわけにはいかないわよね」


 野営といっても相手は十ほどしかいないので、林の地形を上手く利用すれば自分たちにも潜入のチャンスがあるかも知れない。

 そう考えた一行は野営地から大きく離れ、林の側面からアプローチを掛ける。

 黒いテントが張ってある方向を目指し、さっきの蜘蛛の討伐と同じくなるべく足音を忍ばせて進む。一体、この黒ずくめの人間たちは何をしようとしているのか?

 そもそも「リュディガーたちには関係のないことである」と最初に言っていたはずの任務の内容を「魔物の討伐」であるとその後にベラベラ喋ってしまうことからすると、もしかしたらそれは黒ずくめの集団がとっさに考えたつじつま合わせの嘘かもしれない。

 いや、そう考えるとしっくり来るのだ。

 こんな場所で野営をしようとしているとなれば、確実に何かがこの国で起ころうとしているのはリュディガーたちにも何となくわかる。

 だからこそ徹底的に調べるべく、先陣を切って進んでいくフェリシテにアレクシアが声をかけた。


『……止まれ』

「え、何?」

『そなたの足元を見てみろ』


 先を進もうとしていたフェリシテを、冷静な声と共に手で制したアレクシアが地面に何かを見つける。

 白い指で指し示された地面には、よく見てみないとわからないぐらいに巧妙にセッティングされている、侵入者対策用のロープの罠があった。

 このロープの端はそれぞれ木に結び付けられており、しかもロープの途中には金属片までぶら下がっている。

 もしこれに足が引っ掛かれば転んでしまうだけでなく、金属片がぶつかり合ってガランガランと音を立てて侵入者が分かるという仕組みだ。

 だが、これは魔物対策とは思えない。

 この形状の罠からして、人間がこの野営地に入り込んで来ないようにする為のものだろうと結論付ける一行。


「こんなのがあるということは、野営地への侵入者がいる前提の罠ってことなのかしら?」

『だと思うが……騎士団の野営地に忍び込むような人間なんて、今のわらわたちぐらいのものじゃないか?』


 色々と疑問を頭の中で浮かべつつも、パールリッツ平原での魔物討伐も兼ねて進まなければならない現実は変わらない。

 この平原はかなり広いのでなかなか山脈までたどり着くことができないし、騎士団によって通行制限がかけられて魔物の討伐が行なわれたとはいえ、その全てが討伐されたわけではない。

 それはリュディガーの手元にあるギルドの依頼書からも分かる通り、この世界において自然と魔物は切っても切れない関係があるのだ。

 だったらいっそのこと、ダリストヴェル山脈に着くまでの間にその依頼書に記載されているターゲットの魔物と出合った場合、依頼の遂行も一緒にやってしまおうというのがフェリシテの意見だった。

 しかし、そんな一行を邪魔する存在は黒ずくめの人間たちだけではなかったのである。

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