402.明かされる歴史
その話は自分だけでなく、同じようにイークヴェスから説明を受けた経験を持つグラルバルトも信用していなかったのだとタリヴァルは続ける。
『最初にイークヴェスから話をされた時には正直信じられなかったというのもあるし、グラルバルトの奴がルヴィバーと出会った時にもその裂け目が実際に見当たらなかったこともあって、結局は作り話だと思っていたんだ』
しかし……とどこか遠い目をしながらタリヴァルは続ける。
『エスティナのようにこのゼッザオ出身だっていうのがわかったならまだしも、いまだにニルスの出身地もよくわかっていないとなれば、その異世界出身だというのも話がわかる』
「そう言われてもな……俺たちはほとんど話が見えてきていない」
困惑するリュディガーたちだが、バルドだけはそんなのどうでもいいとばかりにこう言い放った。
「そんなの関係ねえよ」
「バルド……?」
「あいつが違う世界の人間だろーがなんだろーが、一つだけハッキリしてんのはあいつがこの世界で色々と問題起こして、この世界を支配しようと企んでいるってこったろ? つまり、俺たちにとっての敵ってーのは変わりない事実じゃねえか。だから何であれ、あいつをぶっ倒さなきゃならねえってのは俺たち全員の目標だ!!」
「そうか……そうだな」
リュディガーはそのバルドの言葉にハッとさせられる。
ついつい物事を後ろ向きに考えがちになってしまう自分と違って、バルドは前向きに明るく考えようとしているタイプなのだ。
そして彼のそんな性格が、リュディガーを始めとする一行に上の階へと進む勇気を与える。
「そうですね。私たちはニルスという人を倒す。そのためにここまできたんですからね!」
「ああ。私たちはまだまだ負けるわけにはいかないからな」
ジェバーもエルガーも意気込みを新たにし、休息を取れたことで上へと向かい始めるこちらの一行だが、それとは逆に地上から地下へと向かっていったアレクシアたちの方では、そのエンヴィルーク・アンフェレイアに関しての話が出てきているところだった。
『これらの書類をいろいろと見る限り、そのエンヴィルーク・アンフェレイアという世界は大昔にこの世界と繋がっていたらしいな』
アサドールたちもその資料を発見したのは良かったのだが、どうやら上に向かった部隊が見つけたその資料とはまた違う話が書かれているようだった
『この世界がそのエンヴィなんとかという世界と分離した原因は、この世界を創ったドラゴンたちのいざこざが原因だったらしい』
「いざこざだって?」
デレクが疑問に思ったのを見て、アサドールはそれについて正直に答え始めた。
『結論からいえば、この世界を創ったのは吾輩たち伝説のドラゴンではない。吾輩たちの役目はこちらの世界を看視することであり、代々その役目を受け継いでこうして生きているのだからな』
「それは前にも聞いた気がするけど、私たちの世界をあなたたちが創ったんじゃないなら誰が創ったの?」
トリスが率直に疑問をぶつけてみれば、アサドールは資料に書かれているその創始者の正体を読み上げた。
『名前は書かれていないが、この世界を創ったのは金色のドラゴンらしい』
「金色のドラゴン……確かにそれっぽいけども、それといざこざを起こしたって意味がちょっとわからないわね」
『吾輩も余りよくわかっていないから安心しろ。……それで、その向こうのエンヴィルーク・アンフェレイアという世界にも吾輩たちと同じように世界を看視している二匹のドラゴンがいて、それぞれの名前がエンヴィルークとアンフェレイアだからそういう名前の世界らしい』
「なんだか安直ねえ」
そのアサドールとトリスの話を横で聞いていたエスティナが、もしかして……と自分の予想を述べる。
「じゃあこっちの世界の名前はヘルヴァナールだから、金色のドラゴンの名前はヘルヴァナールじゃないの?」
『……いや、やはりこれには名前は書かれていないな。その可能性もあるということだ』
結局その金色のドラゴンの名前はわからずじまいだったが、いざこざの原因は書類の内容からわかってきた。
『この世界と向こうの世界がまだ一つの世界だったころ、その金色のドラゴンはエンヴィルークとアンフェレイアと吾輩たちの先祖……つまりこちらの世界の看視者を生み出して、世界を看視する役目を与えた』
しかし、その役目を受けた九匹のドラゴンたちのうち、黒いドラゴンのイークヴェスの先祖とエンヴィルークとアンフェレイアの間で何かしらのいざこざが起こった。
それを見かねた創始者のドラゴンは、いざこざがこのまま続けば世界が破滅する恐れがあると考えて強引に世界を二つに分けた……。
『それがこの世界ヘルヴァナールと、エンヴィルーク・アンフェレイアのそれぞれの歴史の始まりだったらしい』




