401.異世界という存在
『ここに書かれていることは……どうやらこちら側ではなく、向こう側の話になるみたいだな』
『どういうことなの?』
『結論からいえば、我らが倒さなければならないニルスという男はこの世界の人間ではない……ということだ』
残りのドラゴン含め、その場にいる全員に衝撃と疑惑の念が広がる。
そこで最初に口を開いたのはエルガーだった。
「奴が違う世界の人間……だと!?」
『そうなるだろうな。この書類にいろいろと書かれていることを読んでみると、こちらの世界と似ている世界が存在しているらしい』
そう言いながらタリヴァルはエルガーを始めとする人間たちに書類の束を見せるが、その横からシュヴィリスとエルヴェダーが割り込んできた。
『ちょ、ちょっと待ってよ。僕たちそんな話を聞いたことなんてないんだけど!?』
『そーだよ。俺様たちは異世界だか何だかの話って聞いたことねーんだけど。同じ看視者ドラゴンの仲間なのに、共有できねえような話なんてあんのかよ?』
詰め寄ってくる青い男と赤い男の二人組に対して、白い男は静かに頷いて続ける。
『そういうこともある……というよりも、これは我とグラルバルトとイークヴェスの三匹だけしか知っていてはいけないという話なんだと、そのイークヴェスから聞いたんだ』
『いやいやいや、それって僕たちにも教えてくれてもいい話でしょ!!』
『俺様もそう思うぜ。それともイークヴェスが俺様たちに教えられないってことは、よっぽど重要なことなんだろうな?』
今の話を聞いていて、自分たちに情報共有がなかったことに憤りを隠せないドラゴンたちだが、リュディガーたちはさっぱり話についていけていない。
というわけでリュディガーたちへの説明も兼ねて、タリヴァルは再び書類をめくりながら話を続けていく。
『結論からいえば、この大木城の頂上にその異世界へと続く裂け目があるらしい』
「それはニルスが作ったのか?」
『書類に書いてあるのはそういうことだ。そしてここで我らが倒してきた敵たちは全て、その異世界から引っ張ってきた魔物や人間たちらしい』
それに、とタリヴァルはさらに驚愕の事実を一行に伝える。
『向こう側の世界には、人間とはまた別の獣人と呼ばれる種族が存在している。獣人は狐や熊や狼といった動物と人間が交わってできるらしいのだが、普通の人間とは違って動物ごとに人間よりも高い能力を持っている種族なのだとここには書いてあるな』
「ちょっと待ってください。それってもしかして、私が以前イディリークにいた時に経験した、例の裂け目の……」
驚きの声を隠せないジェバーに対して、タリヴァルは目を合わせてしっかりと頷いた。
『恐らくはその獣人たちというのもそうだろうな。そしてその獣人たちが出てきていた裂け目の向こう側は、きっと異世界とやらに繋がっていたのだろう』
「なんと……。しかし、そうなるとここのどこかにもその異世界に繋がっている裂け目が存在するということになりますね?」
魔物や獣人たちをその異世界から引っ張ってきたのであれば、絶対にその異世界に繋がる裂け目が存在していてもおかしくない。
そしてそれは書類に書いてある通り、この大木城の最上階に存在しているとのことなのだが、それを聞いたシュヴィリスとエルヴェダーがこの世界についての心配を口に出し始めた。
『それってまずくない? だって生態系が変わっちゃうでしょ、そんなことしたらさ』
『それだけじゃねえよ。だって獣人だとか異世界の魔物だって俺様たちが一緒に看視しろってのかよ? とても面倒見切れねえぜ』
だから最上階にあるその異世界への裂け目とやらは、なんとしてでも閉じなければならないと考えているシュヴィリスとエルヴェダー。
だが、タリヴァルが書類を読み進めていくとこの世界にまつわる驚くべき文章が記載されていたのだ!!
『いや、あの、それがだな……』
「どうした?」
今までスラスラと文章を読んでいたのに、ここにきて口籠もる様子を見せるタリヴァルに対して、リュディガーを始めとする一行が訝しげな視線を向ける。
それもそのはずで、その先に書かれていたのはこんな内容だったからだ。
『この世界、ヘルヴァナールとその裂け目の向こうに広がっている異世界……名前はエンヴィルーク・アンフェレイアというらしいのだが、その二つはもともとくっついていた一つの世界だったんだそうだ』
その瞬間、人間たちだけではなくタリヴァルを含めたこの場にいる全員が絶句したのはいうまでもなかった。




