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3.無魔力生物

 しかし、リュディガーはそのバルドの誘いを断る。


「いや、やめておく」

「なんでだよ? 気になるんじゃねえのか?」

「確かに気になることは気になるが、今すぐに旅立たなくてもいいだろうと思ってな。金も余り持ってないし、先立つものが用意できたら向かう」

「そう、か……じゃあ、もし気が変わったら俺に言ってくれよ。俺はいつでもいいんだからさ」


 本当の理由は、またパーティーを追放されるようなことに巻き込まれたくないだけだ。

 それを口には出さずにバルドと別れたリュディガーは、そのままこのアクティルの街中にある騎士団の鍛錬場へと向かう。

 騎士団の施設は一般人が軽々と出入りできるような場所ではないが、リュディガーは妹が騎士団の団員たちに口を利いてくれたおかげで、特別に稽古に参加させてもらっているのである。


(トリスが食堂で働いていなかったら、俺も騎士団と関係を持つことはなかっただろうな)


 トリスの働く食堂には、街の住人として騎士団員やその下に位置している兵士部隊の隊員たちもやってくる。

 その縁で知り合ったトリスが、我流で鍛錬をしていたリュディガーを見かねて騎士団で訓練ができるように口を利いてくれたのだ。

 ただ、我流とはいえそれなりにセンスはあったらしく、リュディガーの操るソードレイピアに負けてしまった騎士団員もいるほどだった。

 だが、そんな彼に「騎士団に入団しないか」などのスカウトはかからなかった。

 いや「かけられない」という方が正しい。


(俺にも魔力があれば、もっと優位に戦いが進められるのに……!)


 騎士団員を相手にしてソードレイピアを振るいながら、リュディガーはギリッと歯軋りをする。

 この世界の生物であれば、体内に絶対に持っているはずの「魔力」というもの。それが彼の体内にはなかったのである。

 リュディガーのような生物は読んで字の如く「無魔力生物」と呼ばれており、百万人に一人出るか出ないか、と言われるほどの稀少な存在である。

 魔力がないからといって日常生活ではさしたる不便はない。

 しかし、魔力を必要とする医者や魔術師などの職業にはもちろん就くことができないし、騎士団も兵士部隊も入団するためには攻撃魔術や回復魔術が使えることが必須条件である。

 その魔術の発動に必要な魔力が体内にないリュディガーは、自分の怪我や状態異常を治すためにいつも薬草やポーションなどを大量にストックしていた。


(トリスはもっとまともな職に就いてほしいと言っているが……傭兵を選んでしまった俺が今から他の職に就くとは……)


 目の前には、自分の魔力を使ってスピードアップしたにも関わらず結局リュディガーに倒されてしまった騎士団員二人が、うめき声を上げながら地面に転がっている。

 もちろん死んではいない。鍛錬用に刃を潰した武器をそれぞれ使っているからだ。

 リュディガーは自分のウィークポイントである無魔力を補うべく、騎士団や兵士部隊の施設で鍛錬を行なうようになってからは、その実力を上げるために熱心に努力を続けている。

 無魔力の生物は、その名前の通り魔力に頼らない生活をしなければならない。

 それは傭兵であるリュディガーが人一倍感じていることであり、平騎士や平隊員などにはこのように複数人を相手にしても後れを取ることはまずなく、小隊長や中隊長にも勝利した経験がある。

 さらにいえば、何回か大隊長や連隊長などを相手にして勝利したこともあるくらいなのだが、それでもリュディガーは心のどこかで引っ掛かりを持っている。


(大隊長や連隊長クラスになると、どちらかといえば部下を指揮する立場だからな……武術としての強さはもちろんだが、それよりも人間としての統率力などが求められるから納得はできない)


 勝てたのは素直にうれしい。

 しかし、傭兵として活動するのであれば彼が本当に経験を積まなければならないのは「人間以外の敵」である。

 小型の凶暴な魔物を始め、人間以外の生物だってこの世界には山ほど生息している。

 そういう存在を相手にするには、武器術だけではなく時には魔術で一掃できるだけの力も求められる。

 魔力がないというのは、自分の技術でカバーしきれない部分を補えないのだ。

 だからこそリュディガーには多少の魔物退治を任されることはあっても、大型の魔物クラスになると魔術師や魔術剣士などの同行が必須条件とされてしまい、なかなか上位の依頼を受けられないのだった。


(くそっ、俺はこれ以上傭兵として上には上がれないというのか!?)


 両親がすでに流行り病で他界してしまっており、大した学もない以上、頼れるのは自分の能力のみ。

 そう考えてできそうな仕事を選んだの結果が傭兵だったのだが、このままではトリスの言う通りもっと堅実な仕事に就いた方がいいのかもしれない。

 そんなリュディガーが自分の進路に悩んでいた時、騎士団員の知り合いがこんな情報を共有してきた。

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