394.ゼッザオの国宝
しかし、そこまでは別にいいとしてもなぜエスティナがゼッザオの国宝であるペンダントを持っているのか。
エスティナはこのペンダントを黒ずくめの傭兵パーティーから半ば押し付けられるような形でもらったとのことなのだが、そのようなことがあるとすれば普通にゼッザオからそのペンダントが盗まれたという話に発展してしまう。
「私が言えるのは本当にここまでよ。とにかくペンダントのことについては黒ずくめの傭兵パーティーの人たちからもらっただけだから、それ以上のことは知らなかったわ」
「ゼッザオの首都に行った時に、国宝が展示されていたりとかして見たことがあるって話はなかったりしないのか?」
ジアルからの質問に、エスティナは首を横に振った。
彼女は片田舎の出身だったので、余り王都には行ったことがないらしいのだ。
「王都に行ったことがあるのはそれこそ両親に連れられて二回か三回ぐらいしかなかったし、国宝って多分そんな簡単に国民の前に出すものじゃないから、私が王都にもっと頻繁に行っていたとしても見る機会はなかったんじゃないかと思うわよ」
ましてや、今みたいにこんな首からブラブラとぶら下げていられるようなものじゃないと思うし……とエスティナは言う。
そのセリフを聞いていて、リュディガーは自分と彼女があの地下で初めて会った時の一連の会話をふと思い出していた。
地下から脱出する前に、どうしてもペンダントを取り戻さなければいけないと言っていたあの時のことだった。
『なぜそこまでしてここにこだわる? 危険だと言っているだろう』
『危険なのは百も承知よ。でも、私は取り戻さなければいけないペンダントがあるのよ』
『ペンダント?』
『ええ、そうなの。私、いつもは首から四角いペンダントをぶら下げているんだけど、それをここの連中にとられちゃったの。だからそれを回収しないとまずいのよ!』
『だったらそれも俺たちに任せて、お前はさっさと……』
『いいや、あのペンダントは私じゃないと回収できないのよ』
『どういうことだ? 何か特別なペンダントなのか?』
『うん。あのペンダントはかなりの魔力があるって言われていて……それを知ったあの連中が奪い取っていったの。なんでも、何とかの計画のために必要になるんだって』
『計画?』
『そう。だからその計画が何なのかは知らないけど、あのペンダントは私が大事にしているものだし、ここに閉じ込められていた間にいろいろと聞こえてきた会話で何となくあの連中のことはわかるわ。だからお願い、私も連れて行って!』
今にして思えば、なぜあそこまでペンダントのことについて必死になっていたのか?
それもあの時点で……と疑問に思ったリュディガーは、エスティナにそれを直接聞いてみる。
「だったらどうして、俺と出会った時にあのペンダントは自分しか回収できないとか、魔力がたくさんあるっていうのがわかっていたんだ?」
「えっ?」
「魔力については調べればわかるのかもしれないが、ペンダントは押し付けられたものだろう? なのにどうしてペンダントは自分しか回収できないってわかっていたんだ? 押し付けられたものだったらそんなものいらないって考えて捨てることだってできたはずだろう」
押し付けられたものを大事にするなんて普通では考えられないんだが……とリュディガーが一気にエスティナを問い詰めるが、彼女はここで不思議なことを言い出したのだ。
「それが……そのペンダントは捨てても捨てても私の元に戻ってきちゃうのよ」
「は?」
「ちょっと待ってよ、全く意味がわからないんだけど」
兄のリュディガーに続いて妹のトリスも首を傾げる。
戻ってきてしまう? 勝手に? それはペンダントが意思を持っているという話になるのだろうか?
それに関してはエスティナもわからないのだが、例えばペンダントを捨てた翌日の朝、宿屋で寝ていたはずの自分のベッドの横にあるサイドボードの上にそのペンダントが置いてある。
確かに捨てたはずなのに……と今度は川の中に流してみても、その翌日に野宿していたエスティナのすぐ横にずぶ濡れの状態でそのペンダントがあったりした。
「じゃあ目の前で燃やせばもう自分の元に来ることもないだろうと考えたんだけど、それもダメだったわ」
「どうして?」
「燃えない素材でできているのかも」
エスティナが焚き火を使ってペンダントを燃やそうとしたものの、どうしても燃えないのである。
その話を聞いていたグラルバルトは、それはそうだとペンダントについて口を開く。
『そもそもそれは国宝だからな。我ら七色のドラゴン全ての魔力を込めてあるから燃やそうが潰そうが斬ろうが、一切の攻撃が通じない。そしてそのペンダントは自分が持ち主だと認めた人間を追いかけるんだ』
「え……じゃあ結局このペンダントから私は逃れられないっていうこと?」
『そうなるな』
何度も何度もこのペンダントにまとわりつかれていたエスティナは、これが大事なものだと考えるようになった結果、リュディガーと出会った時のあのセリフが出てきたらしい。
しかし今にして思えば、なかなか厄介な代物に絡まれてしまっているようだとエスティナは苦笑いをこぼすしかなかった。




