37.動き出す冒険者たち
リュディガーが二十歳の誕生日を迎えてすぐ、突然の出会いを果たした少女精霊に導かれて旅立つことになった。
しっかりと準備をしてあるし、やはり決めたことは決めたことだし、世界を見て回ることでものの見方も広がるだろう。
まずはアクティルの町中にある冒険者ギルドに向かって、自分たちがこれから向かうアーエリヴァ帝国方面の依頼がないかをチェックしてみるリュディガー。
いくらか傭兵の仕事を受けておけば、それだけで少しは旅の途中で軍資金の心配がなくなるというものだ。
『どうだリュディガー、何か見つかったか?』
「……軽いものは余りないが、あることにはある」
『へーっ、どんなのだ?』
何枚かの依頼書を手にしているリュディガーを見て、ちょっと見せてくれと断ってからアレクシアが内容を確認する。
『ええっと……全部このイディリークの東側だな。これがダリストヴェル山脈での薬草の採集、こっちがパールリッツ平原での魔物の討伐、それからこれが渓谷での橋の建設の手伝いか……』
アレクシアと出会うきっかけになった薬草採集の依頼は、簡単な任務であったために報酬の額も少なかった。
基本として、ギルドで受ける依頼の報酬が高ければ高いほどに依頼の内容もハードになるといえる。
それから、このイディリーク帝国にいつまで留まるのかと言うのも考えなければならない。
『そうだな……報酬と掛かりそうな時間と依頼の場所を考えると、この橋の建設はあんまりよろしくなさそうだ』
「何故だ?」
『橋の建設は一日や二日で終わるものではないからだ。見てみろ……報酬はこの三つの中で最も高いけど、その分依頼をこなすのにかかる日数も7日ぐらいは見ておいて下さいってなっているだろう?』
「ふむ……」
このダリストヴェル山脈を越えなければ必ずアーエリヴァ帝国に入れないという訳ではなく、少し遠回りにはなるがパールリッツ平原を通って迂回するルートでアーエリヴァ帝国との国境に向かうこともできる。
だったら、橋が架かっていない場所で待ちぼうけを食らうよりもそっちの方が良さそうだと判断して、この橋の依頼以外に二つを受領してリュディガーはアーエリヴァ帝国を目指すことにする。
だが、ギルドの受付を担当している中年の屈強な体躯の男から、旅のルートで思い掛けない情報が入った。
「お前さんたち、ダリストヴェル方面に行くのか?」
「ああ」
「あっちの方は確か、平原で怪しい奴らを見掛けたから通行制限が掛かっているって話があるはずだぞ?」
「え?」
「えっ、それって本当?」
これはアレクシアは当然だが、エスティナやフェリシテ、トリスもそんな話は初耳である。
「ねえおじさん、それっていつの話なのかしら?」
「確か……一週間ぐらい前かな。王宮騎士団の連中が警備を張っているって話があったんだよ。だからもしアーエリヴァに行きたいんだったら平原を抜けて渓谷と山脈を通って行くしかないだろうな」
「はぁ……それは仕方がないわね。それじゃリュディガー、さっきのも一緒に受けようよ」
結局、エスティナに促されて最初の橋の依頼も受けることにしたリュディガーは「これも金になるから」と気持ちをポジティブに切り替えるしかなかった。
そう考えるリュディガーは、フェリシテが事前に手配していた帝都の近くの村で馬を二頭借りて一気にパールリッツ平原を抜けてしまうことに決めた。
「パールリッツが抜けるのに一番時間がかかるし、魔物の討伐が目的でもさっさと逃げるための移動手段を用意しておかなきゃね」
フェリシテのセリフにリュディガーは無言で頷く。
彼も魔物の討伐に傭兵として出向いたことは何回もあるのだが、魔物の大群に囲まれてしまった経験も一度や二度ではなかった。
その時の経験から、いついかなる時でも生きて帰れるように準備を整えるのが大切だと思い知ったのである。
まして、アーエリヴァまではフェリシテのいう通りかなり長い距離を突っ切るためにどこかで馬を借りようと思っていた矢先の、彼女の計らい。
それがあったので、元々の性格ゆえに言葉数は少ないもののフェリシテに感謝しておくリュディガー。
「すまない、助かった」
「良いわよ、別に気にしなくても。私だってあの平原を抜けるのに馬が必要になると思っていたから丁度良かったわよ。それよりもさっさと帝都を離れましょう。次にいつまた、その黒髪の魔術師が襲ってくるかもわからないんだし」
「そうだな」
そこにトリスが付け加えてくる。
「パールリッツで討伐する魔物のこと、それから渓谷の橋のことも考えておかなきゃね、お兄ちゃん」
「わかっている。よし、行こう」
橋の依頼に関してはキャンセルがまだ可能なので、残る二つの依頼だけはしっかりやっておこうと再確認して一行は馬を走らせ始めた。




