376.決着(北東編)
種族的にはアサドールの仲間ではあるものの、滝の裏から姿を見せてやる気満々のドラゴンに対抗するエスティナとデレクとセフリス。
しかし、妙な改造をされてしまっているらしく動きがドラゴンの巨体に見合わないほど素早いのが気になるところである。
それでもついていけない速さではないので、数の差を活かしてこの巨体に立ち向かうことにする一行。
「少なくとも魔術は効くみたいだ。ここは俺が囮になろう」
「わかったわ。じゃあ私とセフリスさんとアサドールで一気に叩き潰すのね」
「それしかなさそうですね。やりましょう」
幸いにもこちらには魔術が使える人間がたくさんいる。
向こうのドラゴンから魔力を感じられるということは、魔術が効くということでもあるので、ここは一気に短期決戦を狙う作戦に出た。
アサドールの得意技である、草木を使った拘束技などが使えないのが痛いところだが、アサドールは滝の裏から出てきたドラゴンと同じぐらいの体躯を持っているので、それを活かした戦い方をしようと決めていた。
「ほらほら、こっちだ!!」
『ガアアアアッ!!』
フェリシテやアレクシアほどではないにしろ、魔術に強いヴィーンラディの騎士団に所属していただけあって、自分もそこそこの魔術が使えるデレクが必死になって変異体のドラゴンを引きつけている。
地上に降りてきて攻撃してくることもあるこのドラゴンは、確かに人間たちにとっては強敵ではあるが、同じドラゴンのアサドールにとっては余り驚異とは思えなかった。
【最初こそ奇妙な雰囲気を醸し出していたが、こうして戦ってみると意外とそうでもないのかもしれん】
もちろん、このドラゴンが決して弱いわけではない。
一言でいえば、自分の魔力をうまく使った攻撃をしてくる相手だ。
それこそ伝説のドラゴンたちに匹敵するであろう量の魔力をふんだんに使い、広範囲の炎のブレスや竜巻などを巻き起こしてくる。
そのおかげで森の木々が薙ぎ倒され、火が燃え移って火事になっていたりするものの、戦っている場所まで被害が及ぶほどではないので気にしていない人間たち。
そしてアサドールよりは接近戦が得意らしく、四本の足を器用に使って引っかき攻撃を繰り出してきたり、巨体を活かした噛みつき攻撃や押し潰しなどのドラゴンらしい攻撃で人間たちを苦しませてくる。
(さすがはドラゴン……やっぱり強い!!)
本当に、アサドールの草木の魔術が使えないのが残念としか言いようがない。
それでもこの戦いの流れは確実に自分たちに向いてきている。
そう考えていたエスティナたちだったが、ドラゴンが大きく身を屈めて上空に飛び上がり、急降下してきてから流れが変わったようだった。
「くっ、空に逃げられると私たちでは手が出せませんね……」
「来るぞ!!」
恐らくはその巨体を活かした突っ込みで勝負をかけてくるのだろうと思いきや、ドラゴンは空中でその口の中に炎のブレスとはまた違ったエネルギーを溜め込んだ。
そしてそのエネルギーを、地上にいる全員に向かって放出した。
『……くっ!!』
「うわっ!!」
とっさにアサドールが、自分の魔力を最大限まで注ぎ込んだ特大の魔術防壁を展開し、人間たちと自分の身を庇うことに成功した。
だが、そのエネルギーは魔術防壁を一瞬で崩して粉々に破壊するほどの威力を持っていたため、思わず身震いをしてしまったアサドール。
どうやらセフリスやフェリシテなどの魔術師と同じく、向こうもエネルギーボールを使えるようなので、これはもうなりふり構っていられないと伝説のドラゴンの一匹は判断した。
『くそ……これ以上吾輩たちの世界をメチャクチャにされてたまるものか!!』
そもそも、空は自分の領域でもあるので突然現れた謎の生物に好き勝手にされるわけにはいかないアサドールは、空中で激しいぶつかり合いをもう一匹のドラゴンと繰り広げる。
そのまましばしの打ち合いが続いた後、一瞬の隙を突いたアサドールの頭突きが相手のドラゴンの腹部に入った。
『おい、ありったけの魔力を込めてエネルギーボールを作り出せ!! そして吾輩の合図で撃ち出せ!!』
「は……はい!!」
エスティナも少ないながらエネルギーボールを作り出し、デレクとセフリスに協力する。
そしてアサドールはといえば、現在の自分よりも低い位置を飛んでいるドラゴンに上から覆い被さるようにして自分の身体を上からぶつけつつ叫んだ。
『撃て!! そして逃げろ!!』
「くっ……!!」
どこに逃げればいいか一瞬迷ったものの、まだ火事の延焼が届いていない森の方へと、人間たち三人はエネルギーボールを撃ち出してすぐに飛び込んでいった。
そして次の瞬間、撃ち出された三つのエネルギーボールが一つに合わさった大きなエネルギーボールとなり、空中からアサドールに抑えつけられて身動きが取れないままのドラゴンに直撃し、周囲が地響きがするほどの轟音に包まれた。




