369.死闘(西編)
雪狼の絶叫が雪景色の中に響き渡っているその頃、フェリシテとジアルとラシェンはセルフォンとともに砲台に大苦戦していた。
なぜならその砲台は大きさに見合わず素早い動きができるらしく、それを操縦している兵士とそれを護っている兵士たちがなかなか砲台を壊させてくれないのだ。
『くっ!!』
その砲台に乗っている魔力砲から放たれた魔力の光線が、自分のすぐ横を掠めていくことにセルフォンは身震いしながらギリギリで回避に成功。
あんなものが地上世界に普及しようものなら、絶対に今までにないぐらいの争いの火種の一つになってしまうことは目に見えている。
それだけは絶対に避けたいセルフォンだが、風属性の魔術しか使えない自分にはなかなか決定打に欠ける攻撃しか出せない感じである。
【あの砲台には魔術は効いているようだが、余り壊れている感触がない気がする……】
それを考えると、魔術ではなく物理的に壊してしまうのが手っ取り早いと判断したセルフォンは、先に地上の敵を全て倒してしまおうと動き出す。
砲台は光線を三回発射してからは、その光線の元となる魔力が切れてしまうようでそれを充填するのに時間も必要となる。
その間は当然だが砲台が使えなくなってしまうので、セルフォンはそこを狙って一気に突進をかける。
『ガアアアッ!!』
「まずい、突っ込んでくる!!」
地上で戦いを繰り広げていたジアルが、上空のセルフォンの動きに気がついてラシェンとフェリシテにその場から離れるように大声で指示を出す。
もちろん自分もその場から離れなければセルフォンに当たってしまうので、今まで戦っていた敵を撃破してさっさと逆方向に足を動かす。
その瞬間、自分の後ろを灰色の大きな影が駆け抜けていったのが見なくとも気配と風で察知できた。
『ガウウウウッ!!』
「すげー……」
思わずそんな声を上げてしまうラシェンの視界の中では、灰色のドラゴンが地面に着陸し、砲台の周囲にいる人間たちを手当たり次第に蹴散らしている光景があった。
その隙に三人は砲台の後ろから回り込んでいき、砲台の破壊を試みる……が。
「あっ、また増援が来ましたよ!!」
「くっ、こんな時に!!」
回り込んで砲台を破壊する絶好の機会だというのに、こんな時に限って敵の増援が現れるなんて。
しかし文句を言っていても仕方がないので、三人はさっさとこの増援を片付けることにして砲台と戦っているセルフォンの援護に回れるように頑張るしかなかった。
これでも幾多もの戦場を駆け抜けてきた三人であるがゆえに、こんな増援ごと気に負けるような実力の持ち主ではないことは確かなので、次々と増援部隊を倒していく。
それを横目で見ながらセルフォンも翼をうまく使って風を起こし、敵の動きを少しでも封じたり自分に有利になるように戦況を持っていく。
だが敵も敵でやられっぱなしではなく、砲台を回転させつつ魔力エネルギーを充填させ、セルフォンがいる方向に向かって砲撃をしようと試みる。
【まずい!!】
その回転してくる方向を見たセルフォンは、とっさに自分も身体を反転させつつその尻尾で砲台をもっと回転させようと考えた。
考え自体はよかったのだが、その回転させてしまった方向がまずかった。
バシンと鈍い音がして砲台を回転させたセルフォンだったが、その瞬間に溜めていた魔力エネルギーが発射される。
【……やばい!!】
まずい状況からやばい状況に。
それは魔力エネルギーが飛んでいった先が、平原の一角にある小高い丘だったからだ。
そこの切り立った崖の部分に魔力エネルギーが当たり、崖崩れが起こってその崩れた土砂が落ちていく先は……。
「え……きゃああああああっ!?」
「フェリシテ!!」
何と、増援たちと戦いを繰り広げていた人間たちの頭上だったのだ。
その崖の下にいたフェリシテに向かって大量の土砂が降り注ぎ始めるが、それを見たジアルがとっさに走り出して彼女をかばって突き飛ばした。
そして一拍遅れて土砂が降り注ぐ。
「うう、う……」
「ベリウン団長!!」
ジアルは下半身が土砂に埋まってしまい、身動きが取れない状況に。
残った増援はラシェンが倒してくれているが、このままではジアルが危ない。
フェリシテは必死に土砂を手で取り除きながら、何とかジアルを助け出そうと試みる。
「団長! 私が今助けます!!」
「う……ああ、頼む……」
その一方でセルフォンは自分の身体を使って何とか砲台を破壊し、脅威を取り除いていた。
そして土砂崩れの惨状を目の当たりにしていたこともあって、自分もフェリシテに協力するべくドラゴンの姿から人間の姿になり、土砂を取り除き始めた……。




