36.旅立ち
「以上だ」
「あー、長かったです……」
今回の事件に深くかかわったリュディガーを始め、アレクシア、バルド、フェリシテ、エスティナ、そしてトリスの六名への事情聴取が騎士団長のジアル率いる帝国騎士団によって行なわれた。
そこでわかったのは以下の三つ。
一つは、今回の帝都襲撃事件と前回リュディガーやフェリシテ、エスティナたちが関わったならず者たちの事件がつながっており、黒幕にアレクシアが知っている人間が関わっていること。
一つは、アレクシアが撃墜したワイバーンの乗り手である鞭使いの緑髪の男……ジャレティという名前らしいが、彼がバーレン皇国と呼ばれる別の大陸にある国の裏社会を牛耳っているという事実が確認できたこと。
そして最後の一つが、どちらも闇の装備品を狙った事件であったことだった。
「まず、お前たちがこれからやるべきことは一つだ。その黒ずくめの集団を追いかけて、今回の事件の黒幕を倒すこと。これは国でもう決まったことだからな」
ジアルがそういうが、リュディガーとしては巻き込まれている立場なのでなかなか決めきれない。
しかし、こうして謎の組織に関わってしまった以上はもう引き返せないのだろうと腹をくくるしかなかった。
そもそも、この事件の発端はあのアレクシアに出会ったことなのだし、アレクシアから『旅に出なければならない』と謎のコメントももらっている。
『そなたが今回の事件であの集団と関わり、その黒幕が先ほどわらわが話した通りの人間だからこそ、その者を止めなければ確実にこの世界は終わるぞ』
「そう言われても実感がわかない。まだまだ俺だって信じられない。あの時、俺が波止場で対峙した傭兵っぽい奴が、前にお前が話していた傭兵のニルスだと?」
そう、アレクシアからリュディガーたちに伝えられている事実の一つ。
それがあの黒髪の傭兵に関することだった。
『そうだ。あの男こそニルス・ベックマン。わらわが封印されるきっかけになった男だ。そしてその男を止められる希望の星は今のところ、そなたしかいないんだ』
「それは、俺が無魔力生物っていう存在だからなのか?」
生まれた時からの特異体質ゆえ、これはもう自分ではどうしようもない話である。
しかし、それこそがあのニルスという男をリュディガーが止められる理由になる、とアレクシアは力説する。
『それだ。そなたは魔力のない人間だからこそ、傭兵にとっては天敵みたいな存在だ』
「アレクシアにとってもか?」
『ああ。わらわがもしニルスの立場だったら、きっとそう思うだろう。味方の面からみると回復魔術や魔術防壁の効果がなくて不安が付きまとうが、そなたは騎士団印を倒せるぐらいに腕が立つと聞いているからな。だから旅立ってこの世界を救うべきだ』
「軍資金まで用意されちゃってるしね……」
そう、少ないながらもすでに旅に必要な軍資金が国から用意されてしまっている。
ただしそれもいつかは底を尽きてしまうので、各国のギルドで依頼を受けて傭兵として任務をこなしながらの旅になりそうだ。
しかも今回その旅に出るのはリュディガー一人ではなく、まず言いだしっぺのアレクシアも同行する。
「それに私たちも今回の事件に関わって、向こうからマークされてしまっているから一緒に旅に出ることになったわ」
「私とエスティナと……それからトリスちゃんも一緒ね」
「当たり前ですよ。お兄ちゃん一人じゃ心配ですから!」
エスティナが首から下げているペンダントが闇の装備品の一つであることに加え、帝国騎士団印として連絡係も兼ねたフェリシテ、そしてリュディガーの無口さや対人関係を心配して自ら志願した妹のトリスの三人が、今回の旅路に同行することになった。
「本当は俺もついていきたかったんだけどよぉ、トリスちゃんの料理屋がめちゃくちゃに破壊されちまったし、帝都も復興作業しなきゃなんねえからついてけねえんだ。悪りぃな」
「わかってるわよ。その代わり、私の仲間たちと一緒に食堂の切り盛りとハイセルタール家の管理を任せたんだから」
申し訳なさそうに言うバルドが、エスティナの仲間たちとともにアクティルの復興と管理を任されて役割分担も決定し、リュディガーが女たちと旅に出ることに決まった。
そしてまずは旅行が趣味のバルドから、最近旅の途中で手に入れた闇の装備品の話を聞き、目的地も決定する。
「隣がアーエリヴァ帝国なんだけどよ、その東側で闇の魔力を溜め込んだ珍しい鉱石のある鉱山が最近になって発見されたそうなんだ。もしかしたらそこに闇の装備品があるかもな」
『よし、ならばそこに向かうとしよう。武器も防具もそれぞれ用意してもらったんだし、ギルドで依頼を受けて出発だ!』
こうして、リュディガーの成り行き任せの旅が始まるのであった。
第一部 完




