360.突入(東編)
東から回り込んでいく黄色いドラゴンのグラルバルトの背中には、トリスとブラインが乗り込んでいる。
当初は自分たちの方に前衛としてデレクを割り振ってもらおうかと考えていたのだが、前衛であればそれこそグラルバルトが大の得意分野である。
それにその前衛や接近戦というのが非常に苦手なアサドールのことを考えると、ここは後衛にトリスを回して前衛も魔術もできるブラインを回した方がいいだろうとの結論に達した。
その東から回り込んでいく一行の目の前には、現在広大な砂漠が広がっている。
それを見て、思わずグラルバルトがポツリとこんな一言を呟いた。
『まさか砂漠を棲み家の一つにしている私が降り立った所が、砂漠の中だったとはな……』
「そうね。歩きにくいのは仕方がないけど、その分見晴らしが良くてまだいいじゃない?」
「後は砂嵐とかが問題だな。今の所は無風みたいだが、急激な天候変化にも気を配る必要がありそうだぜ」
ブラインの実力は一国の副騎士団長を務めるだけあってかなりのものであるし、グラルバルトに至ってはもはや説明するまでもない。
そんな二人を仲間として進んでいくことになるトリスは、少しでも二人の足を引っ張らないようにしようと決意するのだが、そんな彼女たちの前に恐ろしいほどの数の敵たちが現れた。
「……えっ!?」
「うお、何だありゃあ!!」
『待ち伏せはある程度予想していたが、まさかこれだけの数を用意しているとは……』
その数、まるで一国の騎士団ぐらいといっても過言ではない。
まるで生き物の波が遠くから押し寄せてくるような、砂煙の壁ができてしまっているそんな状況になっている目の前の光景に、思わずグラルバルトまでもが引き気味になってしまう。
これでは人間の姿では到底太刀打ちできないので、一度ドラゴンの姿に戻って空から地上部隊を迎撃することに決める。
「しかしこれだけの数を待ち伏せに使うとなると、敵の軍勢はそれほどのものなのかってこったなぁ?」
「そうね。千は確実に超えているわ。もしかしたら万単位までいくかもしれないけど、とにかくこんなのを相手にしないでさっさと先に進んだ方がいいような気がするわ」
当初はこの軍勢を全て潰してから先に進もうと考えていたのだが、こんなに数が多いとなるといちいち相手にするよりもさっさと空を通って先に進んだ方がいいだろう、と眼下に広がる生き物たちの波を見ながら考えるトリスとブライン。
だが、その生き物たちを見下ろしてグラルバルトがふと気がついたことがあった。
『揃いも揃ってこの魔物たち、それから人間たちからは魔力が感じられん。もしかしたら例の無魔力生物を生み出す装置から生み出された軍勢ではないのか?』
「えっ……そうだとしたら、どこかにその装置があってそれを壊さない限り永遠に生み出され続けるってことになるじゃない!!」
「じゃあさっさとそいつぶっ壊しに行こうぜ。そいつ破壊しねえといつまで経っても防戦一方の状態になっちまう!」
相手の攻撃を終わらせるためには、その元を絶たない限りはいつまで経ってもやられっぱなしになってしまう。
そうなるとどうしても自分たちの体力なり武器なりの消耗が激しくなり、最終的にやられてしまうだけになってしまう。
それを危惧するブラインの言葉に従って、一行はまず空からその装置を探すことにした。
『そんな装置があるとすれば、そこから無魔力生物たちが出てきているはずだ。つまりこの軍勢の数が多ければ多いほど、その大元に辿り着ける可能性が高くなる!!』
「確かにそうね。あの装置は総じて大きかったはずだから嫌でも目立つはずだし、すぐに見つかるかもしれないわね!!」
開けた場所で見晴らしがいいのもあって、無魔力生物たちを生み出している装置を簡単に発見することができそうだと考えているトリスだったが、空中からいくらその装置がないかどうかを探してみても見つからない。
どうやらその期待は打ち砕かれてしまったらしいのだが、これだけの無魔力生物をまさか全員どこかからさらってきた人間や魔物たちに薬を注入して作り上げられるものなのだろうか?
(ううん、やっぱりそれは考えにくいわね……)
こんなに多くの人間や生き物たちがさらわれたとなれば、どう考えたって今ごろ地上では大騒ぎになっているはずである。
だとしたら、この軍勢は一体どこから湧き出てきているのだろうか?
腕を組んで悩み始めるトリスだったが、その横でふとブラインがポツリとこう呟いたことで一気に事態は進展する。
「もしかしたらよぉ、俺たちから見えない場所に隠してあるとかなんじゃねえの?」
「……それよ!!」




