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331.魔術に頼れない魔術師たち

 今の時点で、アレクシアとフェリシテには非常に不利な条件が揃っている。

 まず、二人ともこうした接近戦や前衛というものを苦手とするタイプなので、ただでさえ接近戦に持ち込まれでもしたら勝ち目がかなり低くなる。

 それに相手は攻撃範囲の広いバスタードソードを扱う剣士なので、更に分が悪い相手といえる。

 だからといってすぐに諦めるような二人ではなく、まずはアレクシアが地表を歪ませて相手の動きを撹乱する戦法を取る。

 しかし相手もパラディン部隊の第二部隊という、かなり上の立場にいる部隊の隊長なだけあってそんな小細工でへこたれるような人間ではない。

 それどころか、歪んだ地面をタイミングよく蹴って踏み台にした彼はそのまま上空からバスタードソードを構えて一気に地面に叩きつけてきたのだ。


『うわっ!!』

「きゃあ!!」


 ならばとファイヤーエネルギーボールを撃ち出して少しでも攻撃を加えようとするフェリシテだったが、セヴィディルは全くそのエネルギーボールを避ける素振りを見せなかった。

 むしろ、喜んで自分から当たりに来たともいえる。

 まさかそういう性癖でもあるのかと思いきや、セヴィディルは自分からその二人の考えが間違いだったことを思い知らされる一言を告げた。


「はははははっ、無魔力に魔術当てたって効かねえよ!!」

「……無魔力になる薬を飲んだようね」

「そのとーりさ。おらああっ!!」


 こうなるとますます女二人が不利である。

 有利な点といえば、アレクシアが空中へ浮遊することができる点やこちらの方が小柄なので素早い動きができるという点ぐらいだろうか。

 何にしても、エスティナやデレクといった接近戦が得意なメンバーがいない状況で、どうにかしてこの二人で大きなこの男と戦うしかなくなってしまった。


『くっ……図に乗るなよ!!』

「おおっ、そーくるか。だけどそんなんで俺を止めようなんてあめーんだよ!!』


 地面から木の根を何本も突き出し、それによってセヴィディルの動きを止めようとするアレクシアだが、セヴィディルはその大柄な体躯に似つかず割と素早い身のこなしをしてくれる。

 絡みつきそうになる根を、愛用のバスタードソードによる広さのある攻撃で素早く斬り落としていく。

 それでも巻きついてきた根には、自分の圧倒的な力でグイッと引っ張って引きちぎってやった。

 大型の魔物などであればもっと太くて長い木の根を使って拘束することができるのだが、あいにく今の相手は大柄とはいえ人間のセヴィディルなので、太くて長い根を使っても上手くその動きを封じられないのが厄介だ。


「はははははっ、精霊とかいうのも大したことねーなあ? 大人しく俺に倒されちまえよな?」

『誰がそなたのような男に倒されるものか!!』


 虚勢を張ってみても不利なのには変わらない。

 しかし、アレクシアにばかり気を取られていたセヴィディルはもう一人の存在を失念していることに気づいていなかった。


「はははは……はがっ!?」

「今よ、アレクシア!!」


 セヴィディルの後頭部に突然襲いかかる衝撃。

 目の前が一瞬グニャリとなりながらも、すぐさま振り向きつつバスタードソードを振るうセヴィディルだが、今度は側頭部に強い衝撃が叩き込まれる。

 その立て続けにやってきた殴打の衝撃が魔術師のよく使うロッドによるものだとは、視界の隅に映ったフェリシテが自分に向かってそのロッドを再び振り上げていることで、ようやく気づくことができた。


「このぉっ!!」

「ぐっ……ざけんなクソアマ!!」


 さすがに力で打ち負けるとは思っていないセヴィディルは、頭から血が流れ出ているのにも気付きつつ、再び自分に向かって振り下ろされたそのロッドを左手で受け止める。

 そのまま自分が反撃するべく、右手だけで構えたバスタードソードをフェリシテに突き刺そうと、その右手に力を込めた……が。


「ぐおっ!?」

『ふんっ!!』


 普通の魔術が全く役に立たないのであれば、先ほど魔術で地面から突き出した木の根よりも更に細い根をこうして使うだけだ。

 アレクシアは心の中でそう宣言しながら、両手に持った木の根をグルグルとセヴィディルの背後から巻きつけて絞めあげる。

 同時にセヴィディルの膝の裏にある関節を蹴ってバランスを崩し、一気に首を絞めあげる。


「が……はっ、ぐううううっ!!」

「でい!!」

「ぎゃっ!?」


 全力で首絞めから逃れようとするセヴィディルの股間に、これまた全力のフェリシテのロッドが振り下ろされる。

 いくら股間に防具をつけていても、何度も叩かれればさすがにそのダメージが急所に蓄積していく。

 そしてフェリシテは、その叩きつけに余り効果がないと感じたのかロッドの先端部の仕掛けを発動する。

 握り部分についているボタンを押すことによって、ロッドの先端から大型の針が飛び出して即席の槍になる仕掛けなのだ。

 その槍となったロッドを使い、セヴィディルの股間にそれを突き立てる。


「っ!!!!!」


 声すら悲鳴にならないほどの痛み。

 大きく身体がのけぞるが、それに負けじとアレクシアが首を絞め続ける。

 そしてアレクシアが気づいた時には、すでに事切れた大きな肉の塊と化しているセヴィディルの姿が目の前に存在していた……。

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