326.大陸の異変
一方そのころ、グラルバルトとともに謎の黒い陸地(?)の情報収集に向かっているメンバーたちの方では、なかなか思うように情報が集まらないので苦戦していた。
「やっぱり大陸が離れているとなると、直接現地に向かった方がいいのかしらね?」
『そうだな。人間たちの話によればそもそもラーフィティアは独裁国家としてかなり有名だったらしいから、そんな国には余り行きたくないという気持ちはわかる』
エスティナとアレクシアがそんな話を交わす通り、ラーフィティアは何にしてもラーフィティアだけの中で完結する傾向があるらしい。
元々は資源が豊富なこともあり、他国と貿易をせずとも自給自足の生活が成り立つ国家なのだ。
それを聞いていたフェリシテが、騎士団の中でラーフィティアにまつわるこんな話を聞いたことがあるのを思い出した。
「でも今は、追放されたイディリークの将軍たちによってラーフィティアの国家が変わって他国との貿易も盛んになっているのよね」
「そうらしいな。俺のギルドを始めとして、他国からもラーフィティアの依頼を受けられるようになったのが、その将軍が国王になってからだというしな」
そう、前にも少し話題になったがラーフィティアはイディリークの将軍カルヴァルの手によって少しずつ鎖国体制を解き、貿易や軍事などを開国して他国との連携を深める体制に変化したらしい。
イディリークとも貿易をしているようで少しずつ観光客などの受け入れもしているようなのだが、やはり一度根付いたイメージはまだまだ払拭するのに時間がかかりそうである。
なのでそのラーフィティアに関する情報を集めるには、自分たちが直接ラーフィティアに乗り込む必要が出てきてしまった。
「仕方がないわ。お兄ちゃんたちがまだ合流しないのは不安だけど、それでもラーフィティアにそのまま向かうしかなさそうね」
『ああ……それしかなさそうだ』
というわけで、グラルバルトだけがあの黒い陸地の驚異的な威力を知っているからこその恐怖感を持ったままの状態で、一行はラーフィティアのある陸地へと向かった。
……はずだったのだが、結果から先に言えばその黒い空中大陸を視察することは叶わなかった。
なぜかといえばその空中大陸には強力な結界が張られてしまっており、普通に接近しても結界が邪魔をして壁になって弾かれてしまうのである。
『ダメだ、これでは着陸できん』
『うーむ、そなたの巨体で突破できないとなれば小さいわらわたちが突っ込むという手もあるかと思うが、完全に結界が張られているからそれも無理そうだ』
今は不気味なほど沈黙しているこの黒い大陸は、まるで雨雲のようにラーフィティアの大陸に薄暗い影を落としている。
そしてあの突起部分から発射される魔力は、まるで雷雲から落ちてくる雷のようであった。
今は不気味なほど沈黙しているこの空中大陸だが、そこに乗り込もうとも乗り込めないのが歯がゆくてもどかしい。
そこで出した結論は一つだった。
「仕方がないわね。こうなったらこの王都に乗り込みましょう」
「おい、あんた正気か?」
「正気じゃなかったらこんな発言はしていないわよ。この国のことはこの国の人に協力を仰がなきゃね」
それに、とフェリシテはデレクに話を続ける。
「一応、私だってイディリーク帝国騎士団の団員なんだからこの国の今の国王であるサルザード将軍には話は通じるはずよ」
「それはまあ……そうだが、そうそううまくいくもんかね?」
「行くだけ行ってみましょうよ。ダメだったら次の手を考えるだけだわ。というわけでグラルバルト、王都に向けてよろしくお願いします!!」
フェリシテの提案によってラーフィティアの王都へと向かう一行だが、これによってこの先の運命が大きく変わることを一行はまだ知らなかった。
「結構な距離があるものだな」
『これだけの人間を乗せているから速度も上がらん。しかし……私は今、非常に王都の方から奇妙な気配を感じている』
「えっ?」
それは何だとデレクが聞いてみれば、グラルバルトはバッサバッサと翼をはためかせながら理由を答え始めた。
『私の目に見える光景なんだが、王都から黒い煙が立ち昇っているんだ』
「えっ、ちょっとそれって……!?」
『まあ、よくない話ではあるだろう。それにあの王都からは以前私と遭遇して不覚にも私がやられてしまったあの三人組の魔力を、うっすらとだが感じることができる……』
となれば、何がその王都で起こっているのかがわかるというものだ。
伝説のドラゴンは視力も人間や精霊をを大きく凌駕しているらしく、人間たちには未だに見えてこないその王都に向かって出せるだけの速度でグラルバルトは飛び続けていった。




