311.装備
『これでとりあえずよし。しかし、本格的に治療するなら帝都に急がねばな』
『ああ、もちろんだ』
アレクシアに魔術で治療してもらったグラルバルトだが、まだここでやらなければならないことが残っている。
それは……。
『ああそれとだな、リュディガーに渡しておくものがある』
「なんだ?」
『あれだ、あれ』
あれと言われてもわからないので、一体それは何なのかを説明してもらわないといけないリュディガーだったが、見せた方が早いと考えたグラルバルトは一旦先ほどの黒い甲冑があった部屋へと走っていき、それを持ってきた。
だが、それはグラルバルト以外の全員にとって驚きを隠せないものだったのである。
「えっ、ちょっとそれって……」
「おいおい、それってここから持ち出していいのかよ?」
リュディガーよりも先に反応したのはエスティナとブラインだった。
なぜなら、グラルバルトが持ってきたのは先ほどここに厳重に保管してあるのだと説明していたはずの、黒いドラゴンが着ていたと言われているあの黒い甲冑だったからだ。
そして当然、それを渡されると言われたリュディガー自身が一番驚くのは無理もなかった。
「……これ……を俺が持ち歩けというのか?」
『いいや、君が着るんだ』
「はっ?」
予想を上回ることを言われて、冷静な性格のリュディガーの顔も大きく歪んだ。
どうしたらそういうことになってしまうのだろうか?
自分だって武器は失ってしまったが、防具は見ての通りまだ問題はないし鎖かたびらだって着込んでいるので、どちらかといえば自分が今欲しいと思っているのは武器である。
しかし、グラルバルトもそのリュディガーの反応は予想していたようでキチンと理由を説明し始める。
『私の予想が正しければ、この先の戦いはもっと厳しいものとなるだろう。私たちが倒したシャレドというあの者から感じられた黒いドラゴンの魔力……あれが意味するものはわかるか?』
「それさっきお前が言ってたような気がするが……まあいい。あいつらは黒いドラゴンを自分たちの味方に引き込んだ可能性があるってことだろう?」
リュディガーの回答にグラルバルトは頷いた。
『そうだ。もし仮にそうだとしたら、黒いドラゴンは君たちの想像を絶する実力を持っているだろうからな。エターナルソードもそうだが、この鎧だって黒いドラゴンと戦うようなことがあればきっと役に立つはずだ』
それから、もう一つの理由があってこの黒い甲冑をリュディガーに託すのだとグラルバルトは説明する。
『それと、結局この場所が君以外に見つかってしまっているからな。信用していないわけではないが、この場所のことが誰かが口を滑らせないとも限らん』
「それ本人たちの前で言うもんかね、ふつー」
呆れたような口調でブラインが突っ込むものの、グラルバルトはそれを無視して続ける。
『だからここに保管して置きっぱなしにするよりかは、君が着て旅をした方がいいだろう。普通に着込んでいる分にはちょっと派手な甲冑だということ以外は普通だからな』
「だいぶ派手だと思いますけど……」
どうにもその派手だとか普通だとかいう基準は、人間である自分たちとはズレているらしいとマルニスが認識したところで、リュディガーは早速この甲冑を着込むことにする。
普段からつけている鎧を外して、金属製の小手や胸当てなどをカチャカチャと服の上から装備していく無魔力生物だが、いざ着込んでみるとその軽さに驚きを隠せなかった。
「意外と軽いんだな?」
『まあ、そうだな。派手さにばかりこだわっていては戦えない。黒いドラゴンだって一応戦うことはあったりするしな』
まあ、もうずいぶんと長い間そんな光景も見ていない気がするのだが……とつけ加えるグラルバルトがいうには、機動性を重視して軽さと高剛性にもこだわったというこの甲冑は、全て身につけ終わってもリュディガーがもともと着込んでいた鎧よりも少し重い程度で済んでいた。
「この鎧を着てそのドラゴンが戦ったのは、もしかしてルヴィバーの時もそうじゃないのか?」
『ああ。しかし私はその場に居合わせたわけではないので、最初から最後まで人間の姿で戦っていたかどうかまではわからないな』
それでも、この鎧を残して姿を消してしまったのはそのルヴィバーとの戦いの後だというので、リュディガーは黒いドラゴンがそれを着ていたのだろうと勝手に結論づけた。
そしてその黒い甲冑姿になったリュディガーは、甲冑の派手さもあってか妙な威圧感を与える存在になっていた。
「お兄ちゃん、なんだか別人みたい……」
『わらわもそう思う。鎧一つでここまで雰囲気が変わるものなのか……?』
特に彼と付き合いの長いトリスとアレクシアがそう言った直後、マルニスの魔晶石に魔術通信が飛び込んできた!




