30.壊滅したアクティル
といっても、数日かけてここまでやってきたリュディガーが今からアクティルまで戻るのは、それこそ数日かかってしまう話だ。
しかし、それについてはアレクシアが事前にしっかりと準備をしてくれていた。
『わらわと手を繋ぐんだ』
「えっ?」
『早く。これからわらわが転送魔術を使って、そなたと一緒にアクティルまで戻ることにする。だから早く!』
「あ、ああ……」
転送魔術なら、人間に限らず魔力がない荷物なども一瞬で別の場所に送ることが可能である。
だがそれを使うためには、事前に魔術の転送先を座標としてセットしておかなければならない。
アレクシアはアクティルが襲撃されているということで、リュディガーを呼ぶためにアクティルの外れに座標をセットしてきたのだという。
『では行くぞ。身体の力を抜いてリラックスしろ』
「ああ」
アレクシアの手を握ったまま身体の力を抜いたリュディガーは、視界が一瞬グニャリと歪んだのがわかった。
そして次の瞬間には、アクティルの外れにある空き地にたどり着いていたのだ。
「すごい……これが魔術か!」
『感動するのは後だ。まずはそなたの妹の救出が先だ!』
「わかった」
リュディガーはアレクシアに先導され、路地裏からメインストリートへと向かうべく駆け出した。
しかしその道中で、ふとリュディガーに疑問が生まれる。
「一つ聞いていいか?」
『何だ?』
「俺のいる場所がどうしてわかったんだ? 俺はお前に何も告げずに出てきたはずなんだがな」
走りながらリュディガーがアレクシアに尋ねると、彼女は前を見続けて振り返ることなく答える。
『そなたとは契約を結んだからな。そなたがどこにいようとだいたいわかる』
「契約だと?」
『ああ。わらわの守護者を倒しただろう。それで契約は結ばれた』
「おいちょっと待て、それってそっちの都合じゃないか!」
そんな契約なんか無効だとリュディガーは言い張るが、精霊の世界ではそうはいかないらしい。
『仕方がないだろう。精霊の守護者は前の守護者を倒した者が次の守護者になるというルールがあるのだからな。だからそなたはわらわの守護者になったんだ』
「ムチャクチャだな、そんなの!」
『それよりもまずはこの惨状をどうにかするべきだ! このままだとアクティルが壊滅してしまうぞ!』
アレクシアの言うとおり、アクティルの町中は徐々に壊滅状態が近づいていた。
トリスが勤めていた食堂もめちゃくちゃにされてしまっていたのだが、それよりもバルドがニルスの部下にやられていたので、まずはそちらの治療に当たる。
「バルド、無事かっ!!」
「うっ、ぐ、ああ……あ、リュディガー……?」
「ひどいケガだ。アレクシア、回復できるか?」
『もちろんだ、任せろ』
食堂の近くで、壁にもたれかかるようにして倒れていたバルドを発見したリュディガーとアレクシアによって、すぐさまバルドは治療された。
そして、彼から何があったのかを聞くことになる。
「助かったぜ……って、それどころじゃねえ。トリスちゃんがあぶねえんだ!」
「聞いた。さらわれたんだって?」
「ああ! トリスちゃんが攫われそうになってたから助けだそうとしたんだが、すまねえ……このザマだ!」
「気にするな。それよりもトリスをさらったのはどんな奴だった?」
「ええと確か……緑色の髪で、アゴヒゲ生やしてたおっさんだったよ。一見するとそいつは戦う人間には見えなかったんだが、長い鞭を振り回して襲ってきやがった!」
鞭を振り回す中年、もしくは壮年の男。
路地裏を通ってこうして表に出てきただけでもわかるくらい、いたるところの建物は破壊されており、火の手が上がっている。
更には黒ずくめの集団が帝国警備隊員たちや騎士団員たちと戦いを繰り広げているのもあって、敵はなかなかの大攻勢を仕掛けてきているようだ。
「わかった。だったらどこに行ったかを教えてくれ。俺が何とかする」
「無茶だぜ! 俺も行く!」
「いや、俺にはアレクシアがついてる。それにこの辺りの戦いもまだ終わってないから、そっちを優先してくれ!」
リュディガーにそう言われ、バルドは少し迷った後にうなずいて了承する。
「……わーったよ。でも気をつけろよ。奴らは何をする気かわからねえ」
「もちろんだ」
「そのおっさんだったらこっから北の方に向かっていった。多分、城の方に向かっていったんじゃねえの?」
「城だと? トリスをさらうだけじゃなくて、城にも何か用事があるのか?」
「さぁな。とにかく任せたぜ!」
奴らの目的が一体何なのかわからないながらも、とにかくトリスを探すために城の方に向かって駆け出すリュディガーとアレクシア。
しかし城に向かう途中、北の方から突然ハッキリとわかるぐらいに大きな影が現れたのだった。




