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280.不信感

「黒いドラゴンの魔力?」

「バルドさんから?」


 バルドにもっとも近い存在であるハイセルタール兄妹は、グラルバルトのその話に唖然とするしかなかった。

 そんな二人のリアクションを見て、グラルバルトは腕を組んで首を傾げる。


『私の推測が間違っていなければ、彼は君たちが知らない間にどこかで黒いドラゴンと接種した可能性が高い』

「ええっ、それって……もしかしてバルドがニルスとかと繋がっている可能性があるってこと!?」


 かなり飛躍した話を言い出したフェリシテだが、今はそれも考えられてしまうのが余計にバルドへの不信感を煽る。

 まさかバルドが向こう側についてしまったとなれば、かつての親友同士で刃を交えなければならなくなってしまう。


「で、でもほら……まだバルドがニルスたちの仲間になったって決まったわけじゃないから、そう考えるのは早とちりだと思うわよ」

「そうそう。きっと何かの間違いよねえ」


 エスティナとフェリシテがハイセルタール兄妹に対して、少しでも心配をかけまいとフォローの言葉をかける。

 しかし、はるばるヴィーンラディからやってきたデレクがその空気をぶち壊すようなことを言い出した。


「俺はそうは思わないがな……」

「ちょ、ちょっと!!」

「いいや、言わせてもらう。俺はあのバルドとかいう男のことは今ちょっと聞いただけでどんな人間なのかは知らない。しかし、昔からの知り合いだからそんなことをするはずがない……と決めつけで話をするのはよくないだろう」


 デレクは今までの経験から話を続ける。


「人は必ず裏切る……とは言わないがな。どんな人間にだって裏切る可能性というのは存在しているはずだ。それはリュディガー、あんたが一番わかっているんじゃないのか?」

「俺が?」

「そうだよ。あんたは元々の傭兵パーティーを追放される形で裏切られた。名うての傭兵ばかりだったし、トリスとも面識があった人間ばかりだというから、その分突然役立たずだと言われて捨てられた時のショックは大きかっただろう」


 グサグサとリュディガーの心を抉るようなことを、次々に口から吐き出すデレク。

 それは彼の苦い過去があったからだった。


「……俺も元々はヴィーンラディの騎士団で団員として活動していたが、盗賊を逃がしたっていう濡れ衣をかけられたんだ」

『濡れ衣だと?』

「ああ。大規模な盗賊の掃討作戦を成功させた俺の活躍を妬んだ他の団員に邪魔されて、捕まえた盗賊の一部をそいつらが逃がしたんだよ」


 デレクは思わず遠い目になってしまう。

 それは彼にとって、騎士団でもっと上に上っていけるチャンスを信頼していたはずの同僚たちによって潰されてしまった苦い記憶そのものであり、これを口に出すのはリュディガーと同じく自分の心の傷をグサグサと抉るものなのだから。


「それを俺のせいにされて、しかも俺と盗賊団の関係を示す書類まであいつらが作ってやがって、それで俺がやってないって証拠らしい証拠もなくてな……」


 多勢に無勢とはまさにこのことであり、彼がどんなに無実を訴えても証拠が向こうからどんどん出てきてしまった以上、彼は自分の言い分が認められることはなかった。

 結局そのまま処刑されるのかと思いきや、いろいろと功績を上げていたことによってそれを考慮された結果、今のギルドの長として働くようにと命じられるという、比較的軽い処分で収まった。

 しかし彼は今でも騎士団に未練があるらしく、機会があれば戻りたいと思っているらしい。


「……まあ、俺の過去の話はこれぐらいにしておいてだ。どんなに信頼していた奴でも裏切るかもしれないってことだ。それは長年の親友だったとしても、あいつがそんなことをするはずがない……という思い込みが、思いもよらない落とし穴になってしまうかもしれないからな」


 リュディガーたちの間に静寂が流れる。

 しかしこのままここで黙っていても話が進まないので、デレクはギルドのカウンターの方に顔を向ける。


「とりあえず情報収集といこう。ここのギルド長とはすでに魔術通信で話をまとめてあるから、その情報をまとめた書類を用意してくれているはずだ」


 デレクの言う通り、アガートらしき飛行物体を見かけたギルド所属の人間たちの証言をまとめた書類がこのギルドにあったのだ。

 その見かけた場所というのは全部で三箇所。

 やみくもに探しても見つかるとは思えないので、とりあえずこの三箇所を全て回ってみようとリュディガーが提案する。

 バルドのことでモヤモヤしている気持ちを抱えつつも、今はとにかくアガートらしき飛行物体の行方を追うしかないのだから。

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