267.いろいろな意味の再会
「どきなさいよ!! 道を開けて!!」
「死にたくなかったら道を譲るしかないわよ!!」
リュディガーたちは地下牢獄の中を駆け回っていた。
立ちはだかる敵を次々に倒し、各部屋を一つ残らず捜索する。
アレクシアやセルフォンという人間ではない存在が中心となって道を切り開いているものの、人間たちも地下牢獄を踏破するべく武器を振り回して突き進む。
しかし相手側もなかなか考えているらしく、相手のほとんどに魔術が効かなくなってきているのだ。
『まずいな……敵のほとんどに魔力がないのであれば、どうやらわらわやフェリシテの魔術を封じる策を講じてきたらしいな』
『目の中に光が見えない人間や魔物も多数。となればこれはそなたたちが某に話してくれた、無魔力生物を生み出して使役しているという話はどうやら本当だったようだな』
となればその無魔力生物を生み出す装置が、ここにも存在する可能性が高いと考えるリュディガーたち。
医薬品も少しずつ再会して回収できているとはいえ、まだまだ見回っていない場所はたくさんあるので、全ての部屋を回り終わるまでここからは出られないということだった。
しかしその回収戦の終盤には医薬品との再会とともに、思いがけない人物との再会が待ち受けていることを、この時のリュディガーたちは知る由もなかったのである。
その伏線となったのが、回収戦をさっさと終わらせるために必死で戦いを繰り広げていたリュディガーたちの身体に、妙な振動が伝わってきたことだった。
「……えっ、何この揺れ……!?」
『地震……ではなさそうだな』
ミシミシと揺れ始める地下牢獄を見渡して焦りの色を浮かべるトリスと、その隣で冷静に揺れの種類を判断するセルフォン。
それは三十秒もすると収まったものの、また揺れが来ないとも限らないのでさっさと回収戦を終わらせるべく再び突き進み始める一行。
この時点で医薬品はほぼ全て回収したものの、すでに使われてしまった物もあるので完全な回収は不可能となってしまった。
それでも回収できるものは全て回収しなければならないので、最後までこの地下牢獄を見て回らなければならないのは変わらないのだが、セルフォンは医薬品の中になければならないものがまだ回収できていないことに焦りを感じていた。
『……おかしい』
「何がだ?」
『某の家からなくなった医薬品の中で、一番大事な増強剤がないんだ』
「増強剤?」
名前からして身体能力向上に使われそうなものなのだろうと人間たちが予想する通り、それは身体能力はもちろん体内の魔力を増加させる効果のある薬らしい。
しかし、今まで見て回ってきた部屋の全てにその増強剤が置いてなかったことを考えると、すでに使われてしまっている可能性が高い。
『そもそもあの増強剤というのは、某がアサドールに開発してもらった危険なものなんだ』
「危険って?」
『まだ未完成の医薬品でな。アサドールに開発してもらったのは試作段階の増強剤。それをこれから色々と某と一緒に煮詰めていこうということで、某の診療所の二階に保管しておいたんだが、どうやらそれまで持っていってしまったようだ……』
「それを使うとどうなるんだ?」
何か身体に異変でも起こったりするのかとリュディガーが聞いてみれば、セルフォンの回答はその予想以上のものだった。
『あれは人間を人間でなくさせてしまう可能性が高い。ドラゴンの血が入っているからな。それをこれから成分を薄めて調合しようと思っていた矢先の出来事だったから、もしあれが人間の体内に入ったら、人間がドラゴンと合体してしまうぞ!!』
その姿は全く想像もつかない。
他にも、アサドールが開発したとされる魔力を一時的になくす薬にもドラゴンの血が入っているとはいえ、あれは人間の身体に合わせた適切な配合をされた上で渡されたものである。
だが開発途中の薬を体内に入れてしまえば、それだけで薬害を引き起こしてしまう可能性がかなり高くなってしまうので、あれが巷に出回る前に何としても回収しなければならない。
その思いで再び残りの部屋を全て捜索しにかかるリュディガーたちだが、地の利を活かした挟み撃ち作戦や弓使い、それから魔術師といった遠距離攻撃を得意とする敵たちが中心となって足止めにかかってくる。
しかもその上、先ほど感じた謎の振動が再びリュディガーたちに襲いかかってきた。
「うわっ、また!?」
「しかもさっきより大きいわよ、この振動!!」
エスティナとトリスがその振動にグラつく一方で、アレクシアがその振動の発生源を突き止めることに成功した。
『……わかったぞ、あっちから振動しているんだ!!』
彼女のその言葉に従って後をついていくと、そこにはリュディガーたちが見覚えのある巨大兵器の姿があった。




