250.彼女はどこだ!!
だがその洞窟の出口から先の通路が、人間が横に四人立った状態で一杯一杯の横幅しかないので動き回るのもリュディガーは一苦労だ。
その通路を抜けて行くリュディガーは、ソードレイピアの突き攻撃主体の攻撃で先手必勝を心掛けて目の前に現れる魔物を倒す。
それも、出てきたとわかったらすぐに倒す。横幅の狭い通路という場所の関係上、逃げることのできる方向が後ろしかないのでこの戦法しか思いつかないからだ。
「ふぅ……はぁ……」
さっき休憩もしていたがそれでもまた息が上がってきて、休み休み進んで行くリュディガーの目の前に、明らかな人工物が姿を見せたのはその時だった。
(ん、あれは……?)
灰色の人工物がちらりと岩壁の間から見えたので、リュディガーは身体を起こしてその人工物の様子を岩壁の陰から確認する。
(山小屋……だよな? そしてもうここでこの狭い通路は終わって、大きな広場になっているってことはここらは休憩ができる場所だな)
こっちの登山道には山小屋があるらしい。
何にせよこうして広場まで来たので、少しその山小屋で休憩したいと思うリュディガーだが、こういう時に限ってなかなかうまく物事は進んでくれない。
「……?」
ふと上で何か物音がして、次の瞬間には自分の影に別の影が重なるのが月明かりによってわかった。
「うおっ!?」
高い岩壁の上、リュディガーにとっては完全な死角から無言で飛び下りてきた黒い影。
とっさに前方の広場に向かって踏み切り、地面に手をついてぐるりと回って受け身を取るリュディガー。
まさかまた魔物が居たのかと後ろを振り向いてみれば、今度は間髪入れずに武器が突き出される。
「くっ……!!」
ギリギリでそれを首を傾けて回避し、その襲撃者の姿を確認する。
「おい、フェリシテを何処に連れ去った?」
襲撃者……あの岩場でフェリシテを連れ去った精霊のアレクシアは自分の武器のロングボウを構えたまま答える。
『フェリシテならあそこの小屋の中だ。手は出していないから心配するな』
「当たり前だ。さっさとフェリシテを解放しろ!!」
しかし、当たり前だがそんなリュディガーの要求をアレクシアは鼻で笑い飛ばした。
『ふっ、これは実戦を想定した試験だぞ。わらわが素直に応じるはずもあるまい?』
「だったら応じるようにさせてもらおう!」
リュディガーはアレクシアに向かって駆け出すが、彼女は相変わらずの空中浮遊で上空に飛び上がってリュディガーの後ろに回り込む。
(くっ、あれでは簡単に手が出せない!)
空中を移動できる能力を持つ相手にこの広い場所では不利だと考え、リュディガーは今まで魔物を退治していた洞窟の方へ彼女を誘い込んで対峙する。
『ほう、なかなか考えたな。わらわが空中を簡単に移動できないようにした訳か。だがわらわも、自分の使い魔を倒した人間に簡単に負けるわけにはいかないのでね』
この狭い通路の中で先に動いたのはアレクシアで、一直線に走って前蹴りを浴びせようとするがそれをリュディガーは横に身体をずらして回避。
そこから回し蹴りでアレクシアに攻撃を当てようとするも、アレクシアも空中への回避で攻撃を当てさせない。
エルヴェダーから借りた、本来は人間の姿のアサドールが使うというこのロングボウはただ矢を射るだけのものではない。
弓の両端に鋭い刃がついており、いざとなれば接近戦でも使える武器となるのだ。
「ほっ、ほっ!!」
そんなロングボウとソードレイピアでは、空中から攻撃できるアレクシアの能力からできるリーチの違いもあって、真っ向勝負では明らかに勝ち目はない。
となれば接近戦に持ち込むしかないと考え、アレクシアの一瞬の隙を突いて懐へ飛び込み接近戦に持ち込む。
そうなればロングボウの矢のリーチも意味を成さなくなるので、アレクシアも必然的に接近戦で対抗するしかない
鋭い連続突き攻撃の隙を突いて、リュディガーの腹に逆に前蹴りを食らわせたアレクシアは、自分の間合いに持ち込むべく距離を置こうとする。
その前蹴りを放った足はリュディガーの腹に入ったが、リュディガーも何とか踏ん張ってもう一度接近戦へ持ち込み、アレクシアの顔にお返しの左の拳を入れる。
『ぐお!』
彼女が怯んだのを見てさっきのお返しで右の前蹴り。その前蹴りで二人の距離が少し離れる。
それをチャンスと見たアレクシアは再びロングボウを構えて向かうが、リュディガーもギリギリの所でロングボウをかわし続ける。
それに業を煮やしたアレクシアは身体全体で体当たりを仕掛けるが、その体当たりで吹っ飛んだリュディガーは後ろの岩壁に背中をぶつけて、反動で再びアレクシアの方に向かう。
「っのお!」
リュディガーは反動の勢いを利用してアレクシアの懐に飛び込み、彼女の身体を地面に押し倒そうとする。
だがアレクシアはそれに抵抗し、逆にリュディガーを押し倒そうとするがリュディガーも抵抗する。
このまま押し問答を続けていても埒があかないので、リュディガーは一気に勝負に出ようと考えていた。




