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24.奴らの目的(その2)

「……で、結局薬草採集の依頼はすべてダメになっちゃったってこと?」

「いや、それはきちんとこなしてきたし報酬ももらってきた」

「ふぅん。でも、この状況はいったいどういうことかしら?」


 リュディガーにとっては二回目の牢屋の中。

 自分は巻き込まれただけという意識が強いことに変わりはないのだが、どうしてこうなってしまったのだろうかと面会にやってきたトリスに聞かれてこう答えるしかなかった。


「成り行きで巻き込まれた、としか言えない……」

「何よそれ。薬草採集に行っただけでどうして牢屋に入れられるようなことになっちゃうのよ?」

「だから、それはさっき説明した通りなんだがな」


 すべてはあのケルベロスに追いかけられたことから始まったのであり、あれさえなければ自分は普通に薬草を集めてギルドで依頼達成として換金し、いつも通りの日常に戻るはずだった。

 それがどうしてこうなったのか、自分にもいまだに理解できないでいる。

 そんな混乱するリュディガーを目の前にして、トリスは彼と自分の過去について触れる。


「お兄ちゃんと私が、()()伝説の冒険家であるルヴィバー・クーレイリッヒの子孫だっていうことは周知の事実ではあるけど、だからといって今までは普通に暮らしてきていたじゃない。それが何で、その精霊とやらに「旅に出ないと世界が滅びる」なんて言われちゃったのよ?」

「俺もそこがいまだによくわからない。精霊界でも噂されるほどの冒険家の男だ……ってのはアレクシアも言っていたから、俺を見込んでくれたようではあるがな」


 だが、だからといって自分がなんで旅に出なければならないのかの理由がわからない。

 そもそも、その理由であるニルスとかいう傭兵の話を聞かされたのが始まりだったのだが、その傭兵はリュディガーもトリスも知らない人間だった。


「うーん、とにかくそのニルスって人がこの世界に何かを引き起こそうとしているらしいってことよね? その言い分だと」

「そうらしい」

「じゃあお兄ちゃん、逃げましょうよ」

「ん?」


 逃げるって?

 突拍子もないことを言い出したトリスに、鉄格子の向こうのリュディガーはキョトンとした表情になる。

 それについてはきちんとトリスから説明が入る。


「つまり、牢屋から出られたらあの精霊とやらの目が届かない場所まで逃げるのよ。そしてほとぼりが冷めたらここにまた戻ってくる。そうすれば世界を救う旅なんてしなくていいし、私もまたお兄ちゃんと一緒に住めるでしょ?」

「そんなにうまくいくか?」

「私の情報網をなめないでよね。これでも私が働いている食堂には警備隊の人とか騎士団の人だっているんだから、そういう人たちに頼んでツテを頼って精霊の目の届かないところまで逃げるのよ」

「お、おう……」


 お兄ちゃんは私が守るんだから! とギラギラ目を輝かせて意気込むトリスだが、一方のリュディガーは元々ネガティブな性格もあってか、なんだかうまくいかなさそうな予感しかしていなかった。

 とりあえずこれからの行動は妹に任せることにして、リュディガーは再び一人になった牢屋の中でここに来るまでに騎士団から聞いたことを思い返していた。


(確か、あのならず者連中は拉致監禁のほかにも変な薬を製造していた証拠が出てきたんだったな)


 あの地下アジトで見つけた資料によれば、人間の自我を失わせる妙な薬を開発していたり、あそこに拉致監禁してきた人間たちをその実験体として使わせていたらしい。

 眼鏡の魔術師クヴェディルがやたらと「魔力が必要だ」と言っていたのはそれが理由だったのかと納得するリュディガーだったが、もうひとつわからないことがあった。


(……そうだ! 確かあのかき集めた数々の資料の中には「闇の装備品」とかって記載もあったな。それって確か……)


 闇の装備品。

 それはかつて、リュディガーの先祖であるルヴィバーが追い求めていたとされる、この世界のどこかに散らばっているとされる七つの装備品のことである。

 それを集めるのが奴らの目的だったのだろうか?

 すでにあそこの連中は全員始末してしまっているために、きちんとした目的をいまさら聞きだすことはできなくなってしまったが、ニルスという傭兵のこともあるのでこれは決して無視できない話だろう。


(闇の装備品って、七つ集めるとこの世界に恐ろしい災いが起こるって話だったな。だからルヴィバーはそれを悪用されないように、自分しか知らない世界中のいたる所にそれを隠して対策したって言い伝えがある。ルヴィバーはまさか、それを狙って……?)


 となると、アレクシアが言っていた「リュディガーでなければ世界を救えない」という話の流れもなんとなくわからないでもないのだが、それもこれもすべては昔の出来事だし、自分には関係のない話だとリュディガーは考えていた。

 ……そう、この時までは。

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