247.無事なのかどうか?
フェリシテを追いかけて暗い山道を走り抜けるリュディガーだったが、ここでこの内情を知っているであろう存在を思い出して声をかけた。
「……そうだ、あんたなら何か知っているんじゃないのか!? これは一体どういうことなんだ!?」
ピタッと足を止めて方向転換したリュディガーは、後ろから着いて来ている審判役のグラルバルトに詰め寄る。
しかし、グラルバルトは驚くほど冷静な表情と口調でリュディガーを見据える。
『まだまだだね、君も』
「何ぃ!?」
何処か軽蔑した様な口調でそう言うグラルバルトに思わず掴みかかってしまうリュディガーだが、今の彼は人間の姿をしているとはいえ元々はドラゴン、それもこの世界の神である以上リュディガーはあっさりとその手をもぎ離されてしまう。
『これはこの山の中で行なう試験なんだ。だから基本的にこの山から出ることは無いから安心しなさい』
「だ、だけどよぉ……!?」
『これも試験の一環なんだ。こうした状況でいかに冷静に、そして的確に行動を出来るかってこと。普段は冷静な性格でも君はまだ若いから、今みたいにこうして状況次第ではすぐにカッとなることもあるかもしれないけど、こういう時こそ落ち着かないといけないだろう?』
恐ろしく穏やかな口調でそう言うグラルバルトに、リュディガーもだんだん怒りが収まって来た。
「そっ……それはそうだけが……とにかくフェリシテは無事ってことで良いんだな?」
『そうだ。審判役の私がちゃんと保証する』
「本当だな!? 本当に信じて良いんだな!?」
『だからそう言っているじゃないか。それよりも今はここでグズグズしている場合じゃないだろう? これがエルヴェダーの試験じゃなかったら、どんどんあのフェリシテとの距離が遠ざかるだけだぞ?』
そう疑問形で言われて、リュディガーは少し荒々しく踵を返した。
「くっ……わかった。だがもしフェリシテに何かあったらあんたも、それからエルヴェダーを始めとしたこの試験に参加しているメンバーでフェリシテを除いた全員、ただじゃおかないからそれだけは覚えておけよ……!!」
ギリギリと拳を握って震わせ、絶対にフェリシテに追いついてやると意気込んでリュディガーは険しい山道を先に進む。
既に二つの戦いを終えているだけでなく、高低差の激しい山道を進むだけでもかなり体力を消耗する上に、暗闇でどこから敵が襲い掛かって来るか分からないので気力も精神力も消耗する。
だが、フェリシテがさらわれてしまった展開でそんなことを気にする余裕が一気に吹き飛んだリュディガーは、足を動かしてとにかく前に、前にと進んでいく。
その険しい岩場を超えた先には、登山客に対してのご褒美的なものとして星空がよく見える展望台が存在していた。
星空を見る為に立ち止まりたい気持ちもリュディガーの中に少しだけ生まれたが、今のこの状況で立ち止まっている余裕なんてある訳がないのであっさりとその展望台を超えて先へ。
展望台前の道をぐるりと半円状に回って、少しだけ下り坂になっているので一気に加速するリュディガーの目の前に広がった光景は、闇に覆われた山の中とは思えないほどに明るい光を発している鉱物が沢山生えている洞窟であった。
「何だ、ここは……」
急いでいた筈のリュディガーも思わず足を止め、その光景に見とれてしまう程に幻想的な光景。
ピンク、紫、エメラルドグリーン、淡いブルー、ライトグリーン等の鉱物が岩壁に埋め込まれていて発光しているその光景は、幻想的という表現がこれ以上に合う場所はないと思わせるようなものだった。
この洞窟に興味が湧いたリュディガーは、試験中ではあるもののグラルバルトに思わず質問をしてみる。
「ここって何でこんなに明るいんだ?」
『ここは鉱物が良く採れる場所なんだが、今まで進んで来た通りなかなか道が険しいから余り採集がされていないんだ。だからこうやって光を発する沢山の鉱物がそのまま残っていて、それが明かり代わりになっている』
「そうなのか。でも洞窟自体はところどころ朽ち果てているな」
『私たちの先祖がこの世界を創って長い時間が経っているから、仕方のない部分もあるだろう。それに登山ルートとはいえ、洞窟を補強したりするのはなかなか骨の折れる作業だし、そこまで人間たちも手が回らないだろうしな』
この洞窟も結構広そうなので、とにかく先に進むルートを見つけなければならないのが問題だ。
「どこかに出口がある筈だ。頑張って探してみるとするか」
リュディガーがそういって、いつでも戦闘態勢に移れるようにしながら足を進めていく。
しかしその途中でふと気がついたことがあった。
(やけに静かだ……。人の気配はしないが、それでも待ち伏せとかは十分考えられる)
とにかく先に進めば何かわかるかもしれないので、洞窟の中を迷わないように注意しながら進むリュディガー。
だが、リュディガーはこの後に自分を待ち受ける驚愕の事実をその目に見ることになる。
やはり、この洞窟の中にも待ち伏せをしている敵が居たのだ。
「……ふうん、ここまで来るなんてやるじゃないか」
そう言いながら目の前の脇道から姿を現したのは、ロングソードを引き抜いて既に戦闘態勢に入っているヴィーンラディのギルド長のデレクだった。




