23.奴らの目的(その1)
こうしてグレリアーをも倒したリュディガーがふと気が付いてみれば、アレクシアとエスティナもグレリアーの部下たちを倒し終わっていた。
といってもエスティナいわく、アレクシアがほとんど魔術で倒してくれたらしい。
なんにせよ、これでようやくこのアジトを制圧することができたので残るはフェリシテの保護だった。
「立てるか?」
「ええ、どうもありがとう……」
「大丈夫? 何かされた?」
「今のところは暴行されただけ……」
『とにかくまずは傷を癒さなければな。それからそなたもだ』
アレクシアが回復魔術をかけ、フェリシテとエスティナの二人を治療する。
しかし、まだここから出るわけにはいかない。
今しがたリュディガーが倒したグレリアーと、先ほど倒したクヴェディルを筆頭とするこのならず者たちが一体ここで何をしようとしていたのかを突き止めるべく、四人は地下施設内のありとあらゆる場所を探し回る。
すると、エスティナの大事なペンダントをはじめとして数々の物的証拠が浮かび上がってきた。
「さて……いろいろと書類なり物的証拠なりがこうして集まってきたりしたわけだけど、とりあえず整理してみましょうか」
「ああ。騎士団にも応援を要請したんだろう?」
「ええ。魔晶石で連絡して、帝都の方に向かっている人たちの救出とここの調査部隊の派遣を依頼しておいたわ。大体三十人ほど来てくれるみたいだし」
フェリシテがそういうのでとりあえずは安心だが、この場所で見つかったものを整理しておかなければ上手く報告もできそうにないので、まずはエスティナのペンダントから確認する。
『それがそなたのペンダントか?』
「うん、間違いないわ。この黒い縁取りをしてある銀色の四角いペンダント。でもこれって、どうしてこんなに魔力が込められているのか持ち主の私もわからないのよね」
手元に戻ってきたペンダントを首から再びぶら下げつつ、エスティナは首を傾げる。
だが、それについてはアレクシアが心当たりがあるらしい。
『それなんだが……どうもわらわにはただのペンダントとは思えない』
「えっ、どういうこと?」
『闇属性の魔力を感じるんだ。それもかなり強力なものをな。そなたはそのペンダントをどこで手に入れた?』
「こ、これ……は、えっと……」
「言えない場所とか人から手に入れたの?」
やましいものでなかったとしたら別に言葉に詰まる必要なんかない。
なのに、スパッと答えられないのには絶対に何かあると騎士団員としての勘が働くフェリシテは、一気にエスティナに詰め寄る。
「もしそうだとしたら、騎士団まで来ていろいろと話を聞かせてもらうしかないわね?」
「い、いや違うのよ!! これは三か月ぐらい前に、値打ちがあるっていうことで傭兵集団から買ったのよ!」
「傭兵集団?」
その慌てっぷりがまたもや怪しさを醸し出すエスティナだが、ここは一応彼女の言い分を聞いておくことにする。
「そうなのよ。黒ずくめの傭兵集団!」
「それってここの黒ずくめの集団のことじゃないのか?」
「違うわよ。ちゃんとした傭兵集団……って話だった。確か四人組の男ばかりの黒ずくめの傭兵集団だった」
「へえ……そういうのが居たんだ。で、その傭兵集団とはどこで出会って、どこに向かったの?」
「ええっと……確かあれはアーエリヴァだったかしら。そこの王都で出会って、このペンダントは君に似合いそうだって言われてそれで売られた感じ。でも、本当にそれだけでその四人組がどこに行ったかは知らないわ。その後にギルドによってその四人組が傭兵だって話を聞いただけだから」
「ふぅん……」
いまいち信用できない話ではあるが、彼女の口から出てくる言葉を今は聞き覚えるしかなかった。
「まあとりあえず、あなたにもそのペンダントと一緒に王都に来てもらわなければならないわね。今回の事件の重要参考人でもあるし」
「え……行くの?」
「当たり前よ。私は帝国騎士団の団員なのよ? こんな事件が起こってこのまま帰るってわけにはいかないのよ。そもそもあなたはどうしてここに閉じ込められていたの?」
「え……それはだから、ここに山菜を取りに来たから。他の仲間にも聞いてみてよ。……というか、私は危うくここの連中の慰み者にされそうになったんだから」
『なんだと?』
衝撃的な発言に、アレクシアが思わず身を乗り出してきた。
それに気が付いたエスティナは彼女の方を向いて続ける。
「そのままの意味よ。思わぬ収穫だ! ってあのグレリアーってのが喜んでたのよ。あー、今思い出しても気持ち悪い!」
『そうか……それは災難だったな。とりあえず城に行って話を聞かせてもらわなければまずいだろうな』
「ええ、あなたたちもね」
「え、俺たちも?」
自分たちも城に来てもらう、というフェリシテのセリフにリュディガーの顔が変わる。
「当たり前でしょ。どうしてこの状況であなたたちだけそのまま放免なのよ。そうはいかないわよ?」
「……まぁ、それもそうか」




