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230.必死の抵抗

「とりあえず、あのデカブツに立ち向かうのは俺だけじゃあ無理だぜ。小さいのなら俺だけでも何とか出来ると思うけどよ」

「あ、そうか……だったら私があなたの武器に魔力を極限まで注ぎ込むわ。それで何とかならないかしら? 小さい方は私ががやってみるから」

「感謝するぜ。それじゃ小さいのはあんたに任せるから、まずは小さいのを別の場所に引き付けて引き離してくれるか。デカブツは任せてくれ!!」

「了解!!」


 役割分担も決定し、まるでこちらの様子を窺うかのように突進を止めていた鉄の塊に向かって二人は歩き出す。

 その動きに反応したのか、鉄の塊も再び背中の妙な装置を起動させ始めた。


「さぁ、始めようか!!」


 もちろん鉄の塊に対して言葉が通じるはずもないが、大声でそう叫んで気合いを入れ直したデレクは、フェリシテに魔力を注ぎ込んでもらって今までよりも数倍の威力を持つ武器へと変化した自分のバスタードソードを構える。

 フェリシテはフェリシテで、大型のサポートをしている小型の鉄の塊たちに向かってそれぞれ魔術で一発ずつ攻撃を入れる。

 その攻撃で、自分に小型の鉄の塊たちの意識が向いたのを確認してから、元来た通路を逆に走り始めてフェリシテは一旦この場から退却した。

 そのフェリシテの背中を視界に捉えつつ、デレクは突進して来た鉄の塊の巨体を通路のスペースを目一杯使って転がって回避する。


(まぁまぁのスピードだけど、まだまだだな!!)


 心の中で評価が出来るぐらいの余裕があるが、次の瞬間その余裕が油断だったことをデレクは思い知る。

 背中の妙な装置の横に設置されている砲身のような部位がパカッと音を立てて開いたかと思うと、その中から空気を切り裂いて何と細長い砲弾が発射された。


「なっ!?」


 その砲弾を見たデレクは物凄い危機感を覚えて、とっさの判断で横の壁を蹴って宙返り。

 ギリギリで砲弾の追跡から逃れることに成功した。


「はぁ、はぁ……あんなのってありか!?」


 相手がそんな武器を発射できる装備を持っているのだから仕方がないとはいえ、デレクは思わず悪態をつく。

 しかし、砲弾をこの先で全て出来る確信があるかと聞かれれば答えは「いいえ」だった。


(なら、やられる前にやるだけだな!!)


 そう考えたデレクは、バスタードソードを右手一本で持つことにする。

 では空いた左手はどうするのかといえば、腰に取り付けているショートソードを取り出すことに決めた。

 バスタードソードといえどもやや小ぶりなそれは、片手で振り回すことも容易なほどの重さと長さになっているので、こうした双剣術での戦いも可能なのだ。

 その双剣を使って一気に畳み掛ける戦法を取ったデレクは、鉄の塊の突進を避けてそこから鉄の塊の脚を目掛けて右手のショートソードを振るう。

 だが、これはカーンと高い音を立てて弾かれてしまう。


(ちっ、普通の斬り付けじゃ無理か!)


 舌打ちしたデレクはバックステップで距離を取り、再度撃ち出された砲弾を床を転がって回避しつつ、左手のショートソードに今度は自分で自分の有り余る魔力を込める。


(それなら、これはどうかな!?)


 砲弾を回避したその低い体勢そのままに、これでダメだったらその時はまた別の方法を考えなければいけないと思いながら、デレクは先程の斬り付けよりも更に威力が出る回転斬りの動きに入る。

 つまりその回転する動きで魔力の力に加える形で繰り出した、全力の斬り付けを鉄の塊の右前脚に繰り出した。


 するとその瞬間、彼に取っては心地良い手応えとともに見事に鉄の塊の右前脚が切断された。


「良しっ!!」


 思わずそんな声が出てしまったほどに気持ちの良い手応えを感じたデレクの斬り付けにより、バランスを崩した鉄の塊は後ろの妙な装置を噴射して体勢を維持しようとする。

 だが、妙な装置をそんな状態で使おうものなら……。


「くっ!!」


 不安定な挙動を示した鉄の塊の突進を避けたデレクが見たものは、壁にぶつかる寸前で噴射の勢いを脚を使ってコントロールしようとした鉄の塊が、脚を一つ失った為に止まりきれず壁に激突して自滅した場面だった。


「や、やった……」


 最初こそ強さはそうでもないと思っていたのだが、いざ戦ってみると結構手強い相手だった……とデレクは安堵の息を吐きながら武器を握っている両手をだらりと下ろした。

 しかしその瞬間、今まで忘れていたあることに気が付く。


(あっ、そういえばフェリシテは!?)


 小型のサポート鉄の塊を引き付けて走り去っていった異国の魔術師の姿をデレクは思い出し、彼女を探しに行こうと足を動かし始める。


(幾ら魔術師といっても、一気に三体が相手じゃあ……)


 これだったらフェリシテも一緒に戦えばよかったか、と自分の判断を振り返りながらデレクは心配する。

 だが、それは杞憂に終わったようだった。

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