228.魔力の追跡
「どうだアレクシア、魔力は追えるか?
『ああ。残滓が点々と残っているからな。それを追っていけば何とかなるだろう』
武人が守っていた通路は縦に長く、横に狭い。
その通路をアレクシアが先頭で一直線になって進んでいくリュディガーたちだが、そのまま進んでいくと不思議な光景が待ち受けていたのだ。
それは、アレクシアの肩越しにリュディガーが「あっ」と声を上げたことから始まった。
『……どうした?』
「あれ、あそこの光……!」
『え?』
リュディガーが指差す方向にアレクシアが目を向けると、その先には謎の緑色の光がふわふわと宙に浮いている。
「何だろう、あの光……」
「何かの罠か?」
リュディガーに続いてその光に気が付いたデレクやジルトラックも、警戒心を高めながらその緑色の光を見据える。
その光はだいたい太ももほどの高さに浮いており、このまま進めば普通に触れてしまう高さだった。
まるで自分の存在をアピールするかのように点滅しているその光は、リュディガーたちを呼んでいる様にも思える。
『……行ってみるか?』
「ああ、それしかないだろう」
お互いに目配せをして頷き合ったアレクシアとリュディガーは、警戒心を緩めないようにしながらその光が点滅している通路の奥へと進んでいく。
一体この光の場所に何が待ち受けているのだろうか?
だが一行が光の元まで歩いてきてみると、その光はスーッと消えてしまった。
「えっ、あ、あれ?」
「消えた……」
一体今の光は何だったのだろうか? と思う一行だったが、ふと前の方を見てみるとまた同じように緑色のが点滅しているポイントがある。
それを見て、デレクが一つの仮説を打ち立てる。
「これってもしかすると、俺たちをあの光が導いているように思えてくるんだが」
「そうだな……となれば、今はあの光を辿っていくしかなさそうだ」
そのデレクの考えていたことは、どうやらジルトラックも一緒だったようだ。
一体、誰が何の目的でこんなことをしているのだろうか? それがわからなければ、この光を辿っていく意味もなさそうである。
そうして通路を緑の光に沿って進んでいくと、奥には階段があった。
今度の光は奥にある階段の前に出現したので、その階段を上って上に来いということになるのだろうと一行は判断して、大人しく階段を上って二階へ向かう。
「ここは……?」
「何かのホールみたいだけど……」
その二階では若干フロアの雰囲気が変わった。
例えるならば、ここに来るまでに乗ってきた列車という乗り物を停車させるために造られている、駅という建造物の構内というイメージがピッタリ当てはまる。
「何、ここは……?」
「何だか駅みたいな場所だな」
トリスはそのフロアの床や壁の造りを見てキョトンとしている。その隣で彼女の兄が見つめる視線の先には、またもや光が鎮座していた。
だが、今度の光は今までの光と違って若干……ほんの若干ではあるが黄色がかっている。
「あれ、あの光……何か変じゃないか?」
「あ、本当だ。少し色が違うな」
色が違うことに何か意味があるのか? と全員が疑問に思っていたのだが、今はその光に沿って進むしかないので大人しく光に向かって歩き出す。
『じゃあ行くぞ』
「ああ」
何が出てくるか全く予想がつかないので、あの武人と戦った時から未だに緊張しっ放しの一行。
だが、それでも進んでいくしかなかった。
そのまま二階の駅の構内を歩いて行くと、錆び付いた金属製の鉄板が一行の行く手を阻んだ。
それを見たデレクが「あっ」と声を上げる。
「これ……シャッターだな」
「シャッターって?」
「侵入者を防いだり、火事に備えたりするための設備だよ。これはこうやって下から上に向かって持ち上げて開けるんだ」
そう言いながらデレクがシャッターに手をかけて押し上げようとしたが、シャッターはびくともしない。
「ダメだ、鍵がかかってやがる。どこか別の通路から行くしかねーかもなぁ、これ」
諦めの表情でデレクが一行にそう提案したが、次の瞬間アレクシアが思いがけない行動に出た。
『わらわがやってみる』
「え? 魔術で?」
『そう。危ないから少し下がっていろ』
そう言いつつ、アレクシアは左手に特大のエネルギーボールを出す。残りのメンバーはアレクシアの出方を見守る。
『……ふっ!!』
もう壊してしまっても仕方がないとばかりの勢いで、アレクシアは軽い掛け声からエネルギーボールをシャッターに確実に当てることに成功。
その結果、シャッターに人間一人が楽に通ることができる大きさの穴が開いてしまった。
「さぁ、これで先に進めるぞ」
「さすがはアレクシアだ」
穴の開いたシャッターの隙間を潜って進む一行だったが、この先で新しい乱入者が現れることなど今の時点では知る由もなかったのである。




