221.やってきた人間たち
その先頭の馬に乗っている一人の男……ピンク色の髪を耳が余裕で隠れるほどまで伸ばし、手にはハルバードを持っている、見た目三十代手前ぐらいの制服の男が、馬に乗ったままリュディガーたちの方へとやってきた。
そして、未だに列車の屋根の上に乗ったままのリュディガーたちに向かって見上げる形で話し始める。
「……このワイバーンはお前たちが倒したのか?」
「ああ、そうだけど」
「ふうむ……そうなるとどんな風に倒したのかを聞かなければならないから、俺たちと一緒に王都まで来てもらわなければな」
「王都に?」
いきなりの話にキョトンとするトリスだが、そんな彼女の視界に入ったのはハルバードの男だけではなかった。
彼が乗っている馬の横に並びかけてくる別の馬と、その馬に乗っている制服を着ていない男の姿がそうだった。
そっちの男は黒ずくめの服装で、水色の髪の毛を生やしており背中にはバスタードソードを背負っている大柄な人間である。
その男も、リュディガーたちが倒したワイバーンの姿に興味津々らしい。
「こいつはこの周辺一体を荒らし回っていて、被害報告が何件も報告されてる凶暴な奴だったんだ。それにこの警備隊を何人も返り討ちにしてきたんだが、まさかこの人数で倒したっていうのか?」
「そうよ。この砲台がなかったら勝ててたかわからないけどね」
最後尾でリュディガーと同じようにワイバーンに砲撃をしていたエスティナが、バスタードソードの男の質問にそう回答する。
すると、その答えを聞いていた彼がハッとした表情になった。
「おい、まさかあんたたちって精霊のアレクシアとか無魔力生物のリュディガーじゃないのか?」
『そうだが……なぜわらわたちのことを知っている?』
もしかしたら、相手側からこうして自分たちの身分に触れられたのはこの旅に出てから初めての経験かもしれない。
それについてはバスタードソードの男が説明してくれる。
「あー、俺はヴィーンラディのギルドでギルド長をしているんだ。その仕事の絡みでいろいろと情報が入ってくるんだよ」
イディリークにもある冒険者ギルドには、リュディガーのような様々な冒険者たちが集まり、依頼を受ける場所である。
そしてその依頼を出す人間たちもギルドに依頼書を出さなければいけないのだが、ギルド長をしている人間であれば冒険者たちや依頼者たちから様々な情報が入ってくるのだと納得する。
「だから最近、シュアの王都がメチャクチャにされたって話も聞いたしな。それから青とか赤とかのドラゴンがいろいろと事件が起こっている場所に現れているって話も聞いた」
「今回の黒いワイバーンの話はそれとは無関係かと思っていたのだが、まさか俺たちがこうしてそのワイバーンの討伐に来てみれば、先に討伐されていた。……そして、その討伐した人間というのが最近この大陸のみならず、世界中の大陸でその名前を聞くようになった無魔力生物のリュディガー……お前だったというわけだ」
果たして、それとこれとは無関係といえるのだろうか?
ハルバードの男がそう聞いてくるが、どうせここでしらばっくれたところでギルド長の男から突っ込みが入るのは目に見えている。
しかし、リュディガーたちの方もハルバードの男たちに対して聞きたいことがあった。
「それはまた別の機会に話すとして、その前に一つ教えてほしいんだが」
「何だ?」
「あんたたちはいったい何者なんだ? そっちのギルド長だっていう男は制服を着ていないのはわかるが、残りの人間たちは揃いも揃って同じ制服を着ている。それから国家の紋章らしき模様が描かれた旗まで上げている。あんたたちは王国騎士団なのか?」
そのリュディガーの質問に対し、ハルバードの男は首を横に振った。
だが、まったくの間違いというわけでもなかった。
「いいや、違う。先ほどこのデレクが口走った気がしたが、俺たちは王国騎士団の下に位置している警備隊だ。そっちの女が所属しているって話のイディリーク帝国騎士団と同じく、騎士団と警備隊に分かれているからな」
「そ、そこまで調べているの……」
まさか、自分の身分まで調べているなんて……と驚きを隠せないフェリシテだが、ギルド長の男がさらにそのハルバードの男のセリフに続ける。
「それだけじゃない。そっちの金髪の女が人間じゃなくて、この世界で希少な存在と言われている精霊だっていうのも知っている。というか、いろいろな冒険者たちから話が入ってくるんだよ。名前は確か……アレクシアだったか?」
『……ふん、まさかわらわのことまで調べがついているとはな』
そのことに驚くアレクシアに、詳しくは王都に向かってから話すというハルバードの男の話で、リュディガーたちは半ば強制的にヴィーンラディの王都へと向かうことになってしまったのだった。




