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21.あっけない幕切れ

 リュディガーは最後の力を振り絞って、スピードに全てをかけた渾身の突きを斜め上に向かって繰り出す。


「げはっ!?」


 最後の最後に油断が出てしまったクヴェディルの人生は、余りにもあっけなく胸を突き刺されてそのまま絶命してしまうという結末で幕を閉じてしまった。

 そしてそれと同時に、先ほどクヴェディルが生み出した魔物を生み出す魔法陣もスーッと消えてしまい、ようやくこの戦いがひと段落した。

 だが、気になるのはなぜアレクシアがあれほどまでに苦戦を強いられていたかということだ。


「とりあえずこの男は倒したが、二人は大丈夫か?」

「私は大丈夫よ」

『わらわも問題ない』

「いや、とてもそうは見えなかった。特にアレクシアはどうしたんだ? あんな小さな魔物の集団なら、魔術で一掃できるんじゃないのか?」


 魔術が使えない無魔力生物であるリュディガーだからこその疑問をぶつけられ、アレクシアは何が起こっていたのかを説明する。


『わらわもエスティナも、あの魔法陣によって魔力が削られていた』

「どういうことだ?」

「つまり、魔法陣の中に入った生物にそういう効果が出るように仕掛けがしてあったみたいね。その効果を受けてしまうと、身体から徐々に魔力が抜けていくの。そうなると本来の能力が出せなくなる」

『そうだ。吸魔の魔術と似たようなものだが、こちらは体内から魔力を抜くのに特化している分その抜けていくスピードも速い』


 アレクシアは精霊であるが故に、魔力を失ったとしても回復するのは速い。

 しかし、普通の人間であるエスティナにとっては一旦魔力を大幅に削られてしまうとなかなか回復するまでに時間がかかってしまうので、今の彼女の顔色は悪かった。

 そこで、今できる分でアレクシアがエスティナを回復しておく。


『……これでよし』

「ああ、だいぶ楽になったわ。でもあなたってすごいのね。こんな場所に来るのにやけに軽装だし、とても旅人って感じには見えないんだけど、一体何者なの?」

「あ、それはだな……」


 彼女が精霊だということを大っぴらに知られると、いろいろと都合が悪くなりそうだと考えたリュディガーが説明しようとしたが、そんな彼を聞かれた張本人のアレクシアが左手で制して自分で説明する。


『わらわは魔術師でな。いろいろと世界を冒険しているのだが、諸事情であまり周囲に魔術師だと悟られたくないのだ。その辺りは察してもらえると助かるな』

「あー……わかったわ。人には一つ二つ、言いたくないこともあるものね」


 アレクシアにこれ以上聞いてはいけないと感じたエスティナは、とりあえずそこで話を変えることにする。


「そういえば、この男が私のペンダント持ってるかも!?」


 持っていたらここで回収しようと考えるエスティナだが、クヴェディルの服を隅々まで漁ってもそのペンダントは出て来ずに終わった。


「ダメ……ないわ」

「そうか。なら、もう一人黒い髪の斧使いの男がいただろう。その男が持っているんじゃないのか?」

『その可能性は高いな。ちょっと待ってくれ』


 そういうと、アレクシアは再び壁に手をついて目を閉じる。

 そして十秒ほど経ってからスッと目を開けて、迷うことなく二人を先導し出した。


『よし、こっちだ』

「どうしたんだよ?」

『さっきエスティナが、あのペンダントには魔力が多分に含まれているって話をしていただろう。だから魔力が多く集まっている場所をこの地下施設の中で探ったんだ』


 すると、明らかに一箇所だけ魔力が強く感じられる部屋を見つけたので、アレクシアはそこに向かうことにしたのだという。

 途中でまだ残っている敵に行く手を阻まれるものの、そこは吸魔の魔術で魔力を回収し、エスティナにも自分の魔力を分け与えるアレクシア。

 魔力に縁のないリュディガーからしてみれば、自分に理解ができないことをしているのはわかった。

 しかし、それはアレクシアとエスティナも同じである。


『そなたは魔力がないから、わらわたちにできないことができるようだな』

「どういうことだ?」

『そのままの意味だ。そなたは先ほど、クヴェディルとかいう魔術師と戦っただろう? その時は普通に攻撃できたのか?』

「普通に……? ああ、まあ」


 質問の意味がよくわからなかったが、とりあえず聞かれた内容について答えておく。

 多少は苦戦したものの、自分がクヴェディルに攻撃するにあたっては特に問題なかったからだ。

 しかし、それを聞いたエスティナから驚きの声が上がった。


「やっぱりそうなのね!」

「だから何がだよ?」

「あのクヴェディルって魔術師は、物理攻撃や攻撃魔術を防ぐことができる魔術防壁を自分の身体の周りに展開させていたわ! 私たちみたいに魔力がある人間にはそれがわかるの。でもあなたはそこに言及していなかったし、普通にソードレイピアで仕留めることができた。それって無魔力生物のあなただからこそできたことなのよ!」

「そうなのか」


 そしてこのエスティナを助け出す時に錠前をソードレイピアで破壊したのもリュディガーなのだが、その錠前には魔術で特殊なロックがされていたらしく、普通に壊すことは無理だったらしい。

 しかし、それを魔力のないリュディガーはいとも簡単に壊すことができてしまった。

 今まで、ずっとこうして生きてきたからこそ自分と魔力のある人間とでは見える世界も違うらしいと悟ったリュディガー。

 だが、彼はその時ふとあることを思い出した。

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