210.物理的に潰す!
「なっ、ななななな……!!」
「エルノス、こっちだ!!」
四人の中で真っ先に身体が反応したヴィリザが、体力的に最も心配されるエルノスの手を引っ張って近くの通路の中に飛び込む。
残ったソエリドとリヴァラットも、それぞれ近くにある通路の中に飛び込んだその時、今まで自分たちが立っていた場所に大量の岩石が降り注いできた。
もし一瞬でも逃げるのが遅れてしまっていたら、自分たちはあの岩石の下敷きになって命を落としていたに違いない。
「な、なんだこれ……っ!?」
「信じられません……まさかこんな落盤が起こるなんて」
ソエリドとエルノスがお互いに呆然としながら、完全に岩石や砂で塞がれて入れなくなってしまったホールに目を向けている一方で、ヴィリザがリヴァラットに食ってかかり始める。
「おいあんたぁ、ここって王国が管理している最大級の鉱山だっていうから崩れる心配はねーとか言ってたけど、崩れちまったじゃねーかよ、おお!?」
「ま、待て!! 落ち着け!!」
両手で自分の胸ぐらを掴んで岩壁に叩きつけてくるヴィリザに対し、リヴァラットはやや苦しそうにしながらも弁解を始める。
「確かに崩れる心配はないと俺も言った。だが、それだって絶対とは言ってない……」
「変な言い逃がれしようとしてんじゃねえぞ!! 俺たち死んじまうとこだったじゃねえかよ!! それにせっかくみんなで造ったあの生成装置も潰されちまったじゃねーかよ!! ってか、元々テメーが言い出しっぺじゃねーか!!」
そう、ヴィリザの問い詰める内容からする通りこの鉱山のホールに生成装置を造ろうと言い出したのはリヴァラットだったのだ。
しかし、やっと上手く行ったと思った矢先のこの事故。
それもかなりの損害が出てしまったようで、今までにかかった時間も金も労力も全てが無駄になってしまった。
その事実を受け入れられないヴィリザが、発案者のリヴァラットに食ってかかる気持ちもわかるのだが、そこに止めに入ったのがエルノスだった。
「お待ちなさい。これはどうやら事故ではないようですね」
「……ん?」
いきなり何を言い出すんだと思いつつ、リヴァラットを突き飛ばしてエルノスの方を向くヴィリザ。
そんな彼に対し、オレンジ頭の魔術師は冷静な分析力を発揮し始めた。
「あの出入り口を塞いでしまった岩石からは、多量の魔力を感じられます。それもこれは人間のものではなく、何か人外の生物のものです」
「わかんのかよ、そんなこと?」
「ええ、私は魔術師ですからね。そこから分析すると、その生物が何かをしてあの岩石をホールいっぱいに降り注がせたとしか思えません」
その会話を聞いていて、咳き込んでいたリヴァラットを引っ張って起こしながら肩を貸す弓使いのソエリドが問いかける。
「それはわかったが、そうなると知能が発達した人外の魔物がやったってことか?」
「その可能性が高いですね。しかし、この鉱山の中には魔物がいないことをしっかりと確認してありましたし、元々今日出勤していた作業員たちは全員殺害していますから邪魔者はいないはずなのですが……」
「なら、外からその人外の何かがここに入ってきたってことだろうよ」
しかし気になるのは、これだけの大規模な落盤を引き起こせるだけの力を持っているという人外の何かの存在である。
その正体がわからない限り、こちらとしても手の施しようがない。
「仕方ない。俺はニルスに落盤のことを連絡してから探索を始める。お前たちは一人ずつ別方向に散らばって先にその人外の何かを探してくれ。わかったらすぐに魔晶石で連絡しろ」
三人のパラディン部隊長が歩き出したのを見ながら、ニルスに連絡を入れるリヴァラットだったが、その話を聞いたニルスはある程度の予想を立て始める。
『ふうむ、そーなるとあれだね。多分この件にはリュディガーが絡んでいるだろうね』
「あいつが?」
『ああ。前にもちょっと話題にしたかと思うけど、そのリュディガーが精霊のアレクシアだけじゃなくて伝説のドラゴンも仲間に加えて行動しているって話をね』
そこから導き出した答えというのは、リュディガーがそのドラゴンを伴ってここにやってきたのではないかということであった。
『だってそんなに大きな落盤なんて、きちんと補強がされていなかったとか天変地異が起きたとか、そういうのでもない限りは人間技じゃ無理だよ』
「ドラゴンが味方になれば、それは確かにあそこを崩すだけの力はあると思うが……でもドラゴンがここに入れるほどの出入り口の大きさはないぞ?」
『だって普通のドラゴンじゃないからね。人間に擬態できるっていうんだったらそれは楽々ここに入れるさ』
壊されてしまった生成装置の設計書はまだ自分の手元にあるので、また造り直せるように準備はしておくから、と言われたリヴァラットは、リュディガーとそのドラゴンがいるかもしれないということを自分の胸に刻みながら歩き出した。
もし見つけたら絶対にその息の根を止めてやる、と心に誓いながら。




