209.原因
「なんだ、これは……」
自分の視線の先にあるものを見て、思わず絶句してしまうリュディガー。
それはグラルバルトもセフリスも同じだった。
『おい、これは一体……?』
「どうしてこんなものがこの中に造られているんだ……!?」
一足先にこの大きなホールにたどり着いたリュディガーたちが、ホールの内部にそびえ立っている円柱状の見たこともない設備に驚きを隠せない。
金属製のそれはどうやって動いているのかさっぱりリュディガーにはわからなかったが、天井を突き破って伸びているその設備の根本から緑色の透明な液体が流れ出てきている。
そして驚くべきなのは、その液体がドロドロしながら形をムクムクと変えていき、人間や各種魔物になって行動し始めたことだった。
「な、なんなのよあれは……」
「アレクシア様、あれが魔力の正体ですか?」
『ああ、間違いないな。あれこそがこの鉱山の中に溢れている、無魔力生物たちを生み出している根源だ!!』
建物の四階ほどの高さからこうして見下ろしているだけでも、九十度ずつ四方向に設けられている排出口から液体がまず出される。
それが人間、もしくは各種魔物の形になって鉱山各地に散らばっていっているのだ。
しかもその過程で驚くべきなのは、新たに出来上がった人間の服装である。
それに気がついた、最後にここにたどり着いたエスティナたちのグループが顔を見合わせて驚きを隠せない様子になった。
「あ……ねえあの生み出された人間たち、ちゃんと服を着ているわ!!」
『しかもあの格好ってここの作業員の奴らじゃねえの? ってこたぁ、どーやらここの作業員たちと見分けをつかなくさせるみてえだぜ』
「何かよからぬことを企んでいるのは明白だから、このまま放っておくわけにはいかないんだけど……」
言い淀むフェリシテの見つめる先には、腎臓無魔力生物たちを生み出しているあの大型設備を操作している四人の人間の姿があった。
しかもそのうちの一人はというと、またもやあの男がここにいるではないかと驚きを隠せないのがアレクシアだった。
『あの白いメッシュが入っている、茶色っぽい黒髪の男……あれってリュディガーが所属していた傭兵パーティーのリーダーだ!!』
「えーと、確かお兄ちゃんが所属していたパーティーのリーダーは……リヴァラットだったわよね?」
『そうだ。あの顔は忘れたくてもなかなか忘れられん。残りの三人についてはわらわにはわからんが、ここから見える限りでは派手なコートをそれぞれ色違いで着込んでいるのがわかるぞ』
そのアレクシアが発した内容について、当事者でもあるリュディガーは無意識のうちに憎しみを込めた視線を送っていた。
「仲間が一人やられて、やっと俺の前に姿を見せてくれた今だからこそ、絶対にここで決着をつけるべきだ」
決意を新たにするべく自分の気持ちを口に出すリュディガーだが、横でそれを聞いていたセフリスは彼以上に冷静だった。
「その考えには同意するが、まずはあそこまで近づくだけでもやっとだと思うぞ」
『そうだな。それにどんどん生まれてくる人造無魔力生物も向こうの戦力になってくるだろうし……』
セフリスに同意するグラルバルトだったが、リュディガーはそんな二人に向かって当たり前のように自分の考えた作戦を、疑問系のトーンで説明し始めた。
「なら、ここから近づかないでもあそこを一気に潰せる方法があるだろう?」
「えっ?」
『おい、まさか君は変なことを考えているのではないだろうな?』
「ああ、変なことだ。それも自分たちも危険に晒される方法だが、あの設備ごとあいつらを倒すにはこれしかないと思ってな」
顔を上げたリュディガーは、グルリと円状になっているこのホールを見渡した。
そしてその作戦を決行するべく、同じこの場所までやってきていた仲間たちに話をしに行った。
そんな動きが遥か上で行なわれているとは知らないままのリヴァラットは、ここに連れてきた三人のパラディン部隊長たちに話をしていた。
「エルノスもこれを完成させるのにいろいろと協力してくれて助かった。それからソエリドとヴィリザもな」
「いいえ、これも私たちの仕事ですから」
水色のコートに白いラインや模様をたくさん入れた、オレンジ色の髪の毛を持っている赤い瞳の魔術師エルノスが、リヴァラットの感謝の言葉に柔らかく微笑みを返した。
「だがよぉ……俺たちの仲間が次々にやられてるって話だからなぁ。もっとこういうのを造る必要があるんじゃねえの?」
「それは僕も同感だね。でもヴィリザ、僕らが思っている以上に例の無魔力生物は実力が高いみたいだよ」
黄緑色のコートに黒いラインや模様をたくさん入れた、ピンク色の髪の毛を長髪で肩にかけている青眼の弓使いのソエリドが、隣にいるダークグレーのコートに黒いラインや模様をたくさん入れた、短く切っている青い髪の毛にオレンジ色の瞳を持っているバトルアックス使いのヴィリザに忠告する。
しかし、ヴィリザは自信たっぷりの様子だ。
「そんな奴、俺の斧の餌食にしてやるだけさ!!」
「そう思うのはいいが、僕らはその男とその仲間に勝たなければ意味がないんだぞ?」
「そうですよ。それにあなたは一つのことに集中しすぎて周りが見えなくなる節があるんですから、もっと周りを見渡す癖をつけるべきです」
そう言いながらふと上を見上げたエルノスの目に映ったものは、大量に降り注いでくる岩石や砂の雨だった。




