201.敵の技術力
「……それで、そこで見つけたのがこれらの資料や品々だと?」
「そうだ。これで奴らの技術力の高さを少しでも暴けるかもしれないと思ってな」
シュアの王都コーニエルへと戻ってきたリュディガーたちは、予想よりも余り壊されていなかったあの地下の最深部からいろいろな証拠を見つけてきていた。
それを持ち帰ってきたことにより、自分たちと因縁ができてしまったパラディン部隊とやらの技術力の高さが証明される結果になった。
「自我を失っていると思われる兵士たち、各国の制服や装備を複製できるだけの人員の多さ、アガートと呼ばれる未知の兵器……これはそのニルスとやらが絡んでいると見て間違いないのですか?」
『そう……だと思う。まだ断定はできないがな』
シュアの王城の庭に設置された大型の天幕の中に、この王国の若き国王であるレフナスの姿もあった。
やや大きめの緑の瞳を持ち、紫色の髪の毛を短めに切り、緑色のロングコートを羽織っている格好。
そんな将来有望と言われている若い男も、そのニルスが率いていると思われる集団の技術力や規模の大きさに驚きを隠せないでいた。
「そうか……私としては精霊のあなたもそちらの人間に擬態しているというドラゴンも非常に興味があるのですが、それはまた後回しにしましょう」
今はとにかくそのパラディン部隊の謎を解くために奔走するべきだというレフナスだが、今のシュアがこんな状態になってしまっていることで、大した力にはなれないと嘆く。
「だが見ての通り、こちらとしては力になりたいのだがほとんどの施設が破壊されてしまっている状況です。なのでバーレンとファルスに協力を仰ぎたいのですが……」
ビッグホーネットのこともあるし……とそこでチラリとラシェンとカリフォンの方を見るレフナスだが、バーレンもファルスもシュアほど魔術に関して深い知識を有しているわけではないので、余り期待はできなさそうである。
「こちらとしても、確かに三ヶ国の協力は必要だと思いますけど……俺たちファルスは魔術に精通している者が少ないのでなんとも……」
「こっちも魔術に関してはファルスよりかは詳しいけど、シュアと比べちまうと劣りますよ」
「そうですね……それでしたらここは、我がシュアのさらに東にあるヴィーンラディ王国に協力していただき、いろいろと調べてもらうことにしましょうか」
ヴィーンラディ王国はシュアと肩を並べるほどの魔術に精通している国である。
この大陸を走っている魔力を動力とする列車という乗り物も、シュアとヴィーンラディが共同で開発した代物なのだ。
しかしシュアと決定的に違うのは、国の領土の大部分が自然に覆われていることである。
「私たちも合同で演習をさせていただくことがあるのですが、演習のつもりが異常繁殖をしている魔物を討伐することになってしまうこともしばしばなんです」
「向こうも魔術を使用した罠をたくさん仕掛けているようだが、魔物たちも凶暴化してきているようでイタチごっこの状態だ」
エリフィルとセフリスも困った顔をしているが、それはヴィーンラディの話になるのでシュアとしてはアドバイスをすることしかできないのだという。
そして今回のビッグホーネット絡みの話はどちらかといえばシュアの問題になるので、まずは今の状態のシュアでできる限りのことを調べてから、設備や人員の面でどうしても調べられないような点をヴィーンラディに調べてもらうという計画らしい。
それまでは再びシュアの復興の手伝いをすることになったリュディガーたちだが、ここでファルスのラシェンがふとこんなことを思い出した。
「しっかし、俺たちの方も変なもんを積んだ沈没船が見つかったばかりで忙しいってのに、どうしてこうも次から次へとこの大陸で問題が起こるんだ……」
『えっ、沈没船って何だよ?』
その話に食いついてきた人間の姿のエルヴェダーに対して、ラシェンはその沈没船が見つかったという北東の方角に目を向けながら話を続ける。
「ファルスの北東に沈んでいる沈没船を調べに行くってことになったんだ。最近漁師連中がそれを見つけたらしくてさ。本来は俺たち右翼騎士団の担当なんだが、今は俺たちがこっちにきているからリアンたちの左翼騎士団と警備隊の連中がそれを調べに行ってんだよ」
しかし、エルヴェダーが聞きたかったのはそういうことではない。
『そーじゃねーよ。変なもんを積んでたってことだよ。何を積んでたんだ?』
「さぁ……俺たちもさわり程度にしかまだその話を共有してねえからよく知らねえんだけど、錆びかけてる金属製の何かの部品とか、いろいろな実験器具みたいなもんとか……でも、それにしちゃ妙な話らしいぜ」
沈没船の状態からして、火災が発生してそのまま沈んでしまったみたいなのだが、奇妙なことに乗員の遺体は誰一人見つかっていないのだという。
しかも沈んでからそこまで時間が経っていないらしいとの話も出ている。
それを聞いたエルヴェダーは、グラルバルトと顔を見合わせて頷いた。
『おいラシェン、もしかすっとそこに今回の事件との関連があるかも知れねえからこいつら連れてってくれ』
「えっ?」




