200.強さの秘密
その瞬間、ギーッという妙な声とともにビッグホーネットが暴れだした。
当然、ソードレイピアを突き刺したままのリュディガーも揺さぶられることになってしまう。
「うお、お、おおおっ!?」
さすがに耐え切れずに手がソードレイピアから離れてしまい、何もない空中へと吹っ飛ばされてしまうリュディガーだったが、それをある程度見越していたアレクシアが空中でリュディガーを捕まえてくれた。
「はっ……はぁ……ああ……た、助かったぞ……」
『危ない危ない……ところで、あちらも決着がつきそうだな』
生きた心地がまだ戻ってきていないリュディガーと、うまく捕まえられたことに安堵するアレクシアの一方で、グラルバルトは捕まえたまま弱っていくビッグホーネットにとどめを刺すべく急降下を始める。
『これで……終わりだ!!』
「ギィィィッィッ!!」
捕まえたままのビッグホーネットを、逃げ場がない状態で急降下しながら地面へとたたきつける。
それによってビクビクとけいれんし、最終的に絶命してしまったビッグホーネットの姿を見て、これでようやく一つの戦いが終わりを告げたのだとリュディガーたちは実感するのだった。
「さて……だがまだ俺たちのやるべきことは残っているだろうから、いったんあの洞窟の所に戻ろう」
『そうだな。わらわたちの仲間もどうなっているか心配だ』
急いで残りの三人の女たちの元へと帰還するリュディガーたちだが、その心配は杞憂に終わった。
なぜなら、それぞれがそれぞれの相手になっていた部隊長たちを全員倒してしまっていたからだった。
「俺は改めて思う。お前たち三人は本当に強いということをな」
「面と向かってそう言われるとなんだか照れるわよ、お兄ちゃん」
「そうね。でも私たちだってそれなりに鍛錬を積んできているんだし、今回は負けられないっていう気持ちもあったからね」
「負けることは死につながることでもあったから、私もエスティナもトリスも全員で頑張ったのよ」
その人間たちの会話を聞いていて、ふとグラルバルトが疑問に思うことがあった。
『そういえば、エスティナはどこでこの部隊長を倒すだけの戦闘術を学んできたんだ?』
「えっ?」
『それはわらわも不思議に思っていたな。フェリシテはもともといでぃリーク騎士団の団員だったから納得がいくし、トリスもそのイディリーク騎士団や警備隊で兄と一緒に鍛錬を積ませてもらっていたからまだわかるんだが、エスティナだけは詳しく聞いたことがなかったな』
アレクシアも彼女の戦闘技術の高さには疑問を持っていたようで、このタイミングでエスティナに対して説明を求める。
するとエスティナは少し遠い目をして答え始めた。
「……あの場所でリュディガーと出会う前までは、世界中のいろいろな場所を旅していたからね。その途中で魔物に襲われることもあったし、不埒な連中に目を付けられることもしばしばあったわ」
だから自分の身を守るために、エスティナはロングソードを中心として体術や馬術などの技術を身に着けたというのだが、それにしてはどうも独学とは思えないのだ。
「それはそれでいいんだが、誰から習ったんだ? 俺はそこがどうしても気になる」
「私もお兄ちゃんと同じね。だって、素人の付け焼刃って感じがしないんだもの」
「そこはいろいろな人からよ。襲ってきた魔物を退治してくれた騎士団の人とか、酒場で知り合った傭兵の人とか、日銭を稼ぐために働いていた牧場の人とか」
「へぇ、そうなんだ。結構あなたは波乱万丈に生きてきているのね」
だったらそれも納得するトリスやフェリシテだが、リュディガーだけはいまいち腑に落ちないという表情だ。
(まだ何か隠しているような気がするんだがな……)
しかし、今の時点でそれを聞いたとしても彼女は答えてくれないだろう。
それよりも今はまだ他にやるべきことがあるので、リュディガーはそのことをパーティーメンバーたちに説明する・
「よし、それはそれとして俺たちがやらなければならないことをやるぞ。目指すはあの地下の最深部だ」
『最深部とはもしかして、そなたがあの大きなハチを見つけた場所か?』
「ああ。あそこに戻ればきっと何かがあるはずだ」
自分が固定していたロープを切ったせいでビッグホーネットが暴れだして、その地下の最深部はメチャクチャになっているかもしれない。
だが、敵の技術力を知るためにはそこで何かを見つける必要があるかもしれない。
少なくともリュディガーはそう思っているので、パーティーメンバーを引き連れて再びその地下通路へと潜っていく。
すでに甘い匂いが消えて、リュディガー以外のメンバーも気にすることなく動けるようになったあの場所へと……。




