表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/432

18.女の事情

「私も一緒に行くわ」

「いや、ちょっと待て。お前は自分の仲間たちを安全な場所まで連れて逃げるのが先だろう」


 今しがた全員を逃がして、ようやくあのフェリシテを助けるのに専念できそうだと考えていたリュディガーに、一番最初に救い出したその女がそう言い出したことで話がややこしくなり始めた。

 そもそも、ここに囚われていた理由が理由だけに、一緒に行くと言われてもリュディガーもアレクシアも了承はできない。


「さっきの話を聞く限りでは、とてもこの先には行かせられない。山菜を収穫に来て、その途中でここを根城にしているさっきの連中と一緒に拉致されて、身代金を要求されていたんだろう? だったら戦えないなりにさっさと逃げるべきだ」


 一般人のグループが不幸にもこうして誘拐されて監禁状態にあったので、自分たちがここを壊滅するまでにさっさと街に逃げてしまうのが最適だと告げるリュディガー。

 しかし、女の方にもそうはいかない事情があるらしいのだ。


「ダメ。私だってまだここから出るわけにはいかないのよ」

「なぜそこまでしてここにこだわる? 危険だと言っているだろう」

「危険なのは百も承知よ。でも、私は取り戻さなければいけないペンダントがあるのよ」

「ペンダント?」


 リュディガーの疑問に、女は真剣な表情でうなずいた。


「ええ、そうなの。私、いつもは首から四角いペンダントをぶら下げているんだけど、それをここの連中にとられちゃったの。だからそれを回収しないとまずいのよ!」

「だったらそれも俺たちに任せて、お前はさっさと……」

「いいや、あのペンダントは私じゃないと回収できないのよ」

「どういうことだ?」


 何か特別なペンダントなのか? と問いかければ、女はまたもや迷いなく首を縦に振った。


「うん。あのペンダントはかなりの魔力があるって言われていて……それを知ったあの連中が奪い取っていったの。なんでも、何とかの計画のために必要になるんだって」

『計画?』

「そう。だからその計画が何なのかは知らないけど、あのペンダントは私が大事にしているものだし、ここに閉じ込められていた間にいろいろと聞こえてきた会話で何となくあの連中のことはわかるわ。だからお願い、私も連れて行って!」


 どうやら、これ以上拒否してもらちが明かないと判断したリュディガーはしぶしぶ了承することにした。


「……わかった。だが、戦えないんだろう?」

「ううん、少しは戦えるわよ」

「そうなのか?」

「うん。さっきは仲間のことで精いっぱいだったから、そこまで説明している余裕はなかったんだけど、これでもナイフ術は習得しているから」


 そう言いながら、ズボンのポケットから二本のナイフを取り出す女。

 灰色のシャツに黒のズボン、茶色のブーツという軽装でありながらもその眼にはギラギラとした闘争心があふれていた。

 それほどまでにそのペンダントとやらは、どうやら大事なものらしいのだ。


『ついてくるのはいいが、危険が伴うことを忘れないでね』

「わかってるわよ」

『それじゃあ行きましょう。……あ、そういえばそなたの名前って何だったかしら?』

「エスティナよ」

『エスティナね。どうもその……二色の髪の色が印象に残っちゃってね……』


 名前を忘れてしまうほどにインパクトのあるその髪の毛の色は、相手から見て左がピンクがかった赤、右が青と奇抜なものだった。

 エスティナはリュディガーの住んでいる帝都アクティルの住人ではないらしく、どうやらどこか別の地方から旅をしてきたらしいのだ。

 どこから来たのかは詳しくは語りたがらないものの、ここに一緒に捕らわれていた人間たちは山菜取りの仲間を募集しているということで集まったメンバーらしく、直接的な接点はなかったらしい。

 そして敵を倒しつつ進んでいく中で、三人の話題はここの連中が企んでいるとされる計画の内容になった。


「……それは本当か?」

「ええ。人をどんどん集めて、体内に入っている魔力を取り出すために衰弱させていたらしいの」

『魔力が必要となると、そなたのペンダントを強奪したという話も納得できないでもなさそうだが、大気中に混ざっている魔力ではダメなのか?』


 しかし、それをエスティナが聞かれてもわからなかった。


「そこまではわからないわ。でも、そうやって魔力を集めて何かをしようとしているっていうのは確かね。それからリーダー格の名前もわかったわ。リーダー格の人数は二人。一人が黒髪の大柄な斧使いのグレリアー。それからもう一人が白髪に眼鏡をかけている……」


 そこまでエスティナが言った時、ふと前方からコツコツと靴音を響かせて歩いてくる人影が。

 その姿を目にしたエスティナが「あ」と声を上げた。

 続けて、見知った人影であるがゆえにリュディガーとアレクシアも声を上げる。


「おい、あれって……」

「あ、あいつよ! あれがもう一人のリーダー格の魔術師で、名前はクヴェディルよ!」

『クヴェディルね。まあ、向こうもやる気みたいだし……ここでいい加減決着をつけた方がよさそうね』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ