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188.魔術研究所で見た影

 だがそれを受け止めるのと、今回その国宝である指輪が奪われてしまったのは全く別の問題である。

 なのでここからは、その侵入した賊がどうやって入ってきてどうやって出て行って、そしてどこに消えてしまったのかという足取りを追わなければならない。


「それで、その賊はこの研究所でどういう行動をしていたのかしら?」

「私たちが今までに調べた限りでは、どうやら研究所の側面の塀を乗り越えてきたようですね。そこに部外者と思われる足跡が残っていました」

「えっ、それってここに設置されている侵入者を感知する魔術の機能が作動しなかったってこと……?」


 信じられない、という表情でエスティナがエリフィルを見るものの、エリフィルの表情は本気だった。


「そうです。私たちとしてもそんなに簡単に侵入されてしまうのかと愕然としましたが、どうやら研究所の内部に簡単に侵入されてしまったことは事実です」

『そもそも、それはどういう仕組みなのだ? 侵入者の魔力に反応して警報が鳴るとかそういうものじゃないのか?』

「おっしゃる通りです。しかし警報は鳴らなかった。この点から、こちらとしては内部に内通者がいたという可能性も考えて捜査を進めていく予定です」


 内通者。

 普通に考えれば確かに、研究所のそうした侵入者対策の装置を反応できないようにしてしまえば、いくらでも外部からの侵入が可能になってしまう。

 だが、その賊が侵入した時には装置が切れた形跡はなかったというのが徹底的な調査で判明している。


「この研究所の中には内通者がいなかったと?」

「ええ、そうなりますね……いずれにしてもまだその賊の正体は不明です。目撃者の話だと黒ずくめの格好をしていて、体格的には男らしいのですが……あいにくまだ手がかりが掴めていないんです」

『参ったな、それは……』


 後は内通者がまだこの広い王都の中に隠れているかもしれないし、もうどこかに逃げてしまったのかもしれない。

 そもそも内通者なんて最初からいなかったのかもしれない。

 いろいろな可能性が頭をよぎって残念そうにそう呟くアレクシアだが、そんな彼女を見ていたトリスがナイスタイミングの提案をする。


「あれ? そういえばアレクシアって他人の魔力からその魔力の痕跡を犬みたいに追いかけることができるのよね?」

『まぁ……犬とは違うのだが、それならできるぞ』

「じゃあさ、その足跡から魔力を感じ取れたりしないかしら? ブーツについている魔力がそこに残っているかも」

『あっ、なるほどな!!』


 それだったら確かに、いまだに何の手掛かりも得られていない賊の行方を追えるかもしれない。

 アレクシアは早速その足跡が残っている場所に案内してもらい、許可を得てからその足跡を手で触ってみたり、顔を近づけてみる。


「半壊状態だったこの魔術研究所で、よく足跡が残っていてくれたもんだ」

「本当だぜ。それからあの精霊とやらの能力もしっかり役に立ってくれそうだしよぉ」


 ラシェンとカリフォンがそんな会話を交わしているのだが、当のアレクシアはいぶかしげな表情でその足跡を見つめていた。


『確かにこの足跡からは魔力が感じられるのだが、この魔力は感じたことのないタイプの魔力だな』

「どういうことだ?」

『つまり、この世界でわらわが行ったことのない国の魔力なんだ。精霊といえども全世界を飛び回っているわけではないからな』


 今の時点ですごい怪しいと感じるのはラーフィティアの連中が関わっている、ということだったのだが、どうやらそれとはまた違うタイプの魔力らしい。


『ラーフィティアの人間たちから感じるタイプの魔力ではない。そもそもこれは人間の魔力ではないと思う』

「えっ!? 人間の魔力じゃないってことは精霊の魔力とか、魔物の魔力とかだったりするの?」

『そうだと思うのだが……わらわたち精霊の魔力はもっと特徴的な、鼻にツーンと来るような魔力なんだ。しかしこれは違うから魔物の類じゃないのか?』


 だが、目撃情報によると侵入した賊というのは黒ずくめの格好をした人間との話だった。


「ということは今までの話をひっくるめると、その賊の靴に魔物の血とか液体とかそういうのがついていて、それでそう判断する材料になったってことかしら?」

『そう思ってくれて構わない。でもそうなると、その賊はここに来る前に魔物を倒してから来たってことなのか?』


 だったらもっと返り血を浴びているとかしてもいいような気がするので、強い魔力が残るはずだ。

 しかし、それ以上の手掛かりはここではつかめそうにない。

 これからどうしたものか……と一行が頭を悩ませていると、そこにやってきたエルヴェダーが賊の足取りへと繋がる大きなヒントをくれることになった。

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