181.新型兵器の実力
「では皆さん、この新兵器アガートの力をとくとご覧あれ!」
どこかからシャレドの声が広場に響き渡る。
せっかくグレトルを追えると思っていたリュディガーの目の前に、その声とともに立ちはだかってきたアガートという名前の金属兵器が、どうしても通してくれないらしい。
「お、大きいわね……」
「きっとあの中にシャレドが乗っていて、どこかに声を出すための装置があるのよ!」
大きさに唖然とするエスティナと、状況を分析しながら臨戦態勢に入るフェリシテ。
それからトリスは後ろに下がって弓を番え、アレクシアとエルヴェダーは広場の端を通ってアガートの横に回り込んでいく。
そのリュディガーたちの様子をアガートのコックピットから見ているシャレドは、ふむと一言頷いてから攻撃に出る。
(それではまず小手調べからいきましょうか)
心の中でそう呟きながら、手元にある二本のレバーを右手と左手でそれぞれ動かして、アガートの動きをコントロールする。
ガガガ……と重苦しそうな音をさせながら動き出したアガートに対して、リュディガーたちがそれぞれ物理攻撃や魔術での攻撃を仕掛けてくるのだが、鋼鉄のこの身体はビクともしなかった。
やはりニルスや自分……それから「旧」ラーフィティアの人間たちが総力を結集して創り上げたこの兵器は無敵である。
そもそもこのアガート一機だけでシュアの王都を壊滅させたのだから、こんな何人かしかいない小さな集団なんて何も恐れることはなかった。
そう、二つの注意点だけを除けば。
「な、何で魔術が効かないのよぉ!?」
「剣で斬っても全然ダメだわ!!」
そんなアガートと戦いを繰り広げているフェリシテとエスティナは、自分たちの攻撃がまるで効いていないことにどんどん焦りの色が大きくなっていく。
それは人間たちだけではなく、アレクシアとエルヴェダーの人外の存在も同じことを思っていた。
自分たちが繰り出す魔術が一切効いていないだけでなく、エルヴェダーの場合はエスヴェテレスでザドールとユクスの騎士団コンビを軽々と持ち上げた時のように、人間の姿になってもドラゴンの時の力は残ったままなのだ。
その力を持って槍や肉弾戦での攻撃を繰り出しているのに、コーニエルで戦った時と同じく効果がなかったのである。
『まずい、これでは手も足も出ないぞ!!』
『くそっ、同じことの繰り返しだぜ!!』
人外の存在が、人間が生み出した妙な兵器を相手にして全く歯が立たないこの状況を見て、普段は冷静なシャレドも思わず興奮してしまう。
「は……ははははは!! どうしました!? 私とアガート相手に手も出ませんか!! いやあ、愉快ですねえ!! はははははっ!!」
(あいつ、性格まで変わってしまっている……)
しかし、その興奮しながらのセリフは全て事実である。
この小手調べだけでも十分にリュディガーたちを抑えられている状況だが、シャレドは次の手を繰り出し始める。
それは、手元のレバーの先端についている赤いボタンをカチッと音がするまで押し込んだことから始まった。
「きゃっ!?」
『バカ、危ねえっ!!』
アガートの両肩部分からウイーンと何かが動くような音がしたかと思うと、そこから出現した砲口が火を噴いた。
魔力を利用した魔弾が次々に撃ち出され、地上にいる人間たちに向かって襲いかかり始めたのだ。
今までも戦場で大砲を撃ち出されたことがあるリュディガーたちだが、その細かい弾丸を無尽蔵に撃ち出してくるとなると、こんなのは相手にとって有利にしか働かないのだった。
慌てて木の影に身を隠して弾丸の雨を回避するリュディガーたちだが、これでは近づくことすら困難を極める状況だ。
『調子に乗るな!』
そう叫びながらアレクシアが太い木の枝を地面から生み出して、それをまるでツタのようにしてアガートの両脚に絡み付かせて動きを封じさせようと試みる。
しかし、アガートを操るシャレドは次の一手を繰り出し始める。
「甘いですねえ。そんな小細工でこのアガートを止められるとでもお思いか?」
そう言いながらレバーを動かして、アガートの両手を使ってまるで靴を履くかのような姿勢で脚に絡みついているツタを引きちぎってしまった。
『嘘だろ!?』
「危ない!!」
驚きを隠せないアレクシアに向かって、アガートの巨大な手によってまるで鞭のように振り回される二本の太いツタが襲いかかる。
トリスの声で間一髪その攻撃を回避したアレクシアだったが、まさか動きを封じるための攻撃を逆に利用されてしまうことになるとはさすがに想定外だった。
『くそっ、こんなのなぶり殺しもいいところだぜ!!』
『今のわらわたちではとても手に負える相手ではない!! ここは退くぞ!』
悔しいが、この状況でこの兵器をこれ以上相手にするのは絶対に不可能である。
ツタが叩きつけられた部分の地面は大きくえぐれてしまっており、あんなのを食らってしまえば一撃で即死だろう。
なのでここは悔しさを噛み締めながらの撤退となってしまったわけだが、その時トリスがあることに気がついた。
「あら? そういえばお兄ちゃんは……?」
兄の姿が見えないことに気がついたトリスだが、じっくりと捜索している暇はなく、今は逃げることを最優先に行動する。
その一方で、兄の方はとんでもない行動に出ていた。




