17.地下アジト探索
だが、その目的地に向かう途中で敵が次々にやって来る。
出来れば何とかして戦わずに目的のドアに辿り着きたいのだが、相手方もこの広い地下アジトの中に収まるだけの人数を擁しているだけあって、なかなか先に進む隙が見つけられない。
(こうしている間にもさっきの女がどうなっているか……!)
だが、ここでもアレクシアの魔術が冴えわたる。
大人の男五人が横並びになるのが精いっぱいの広さの通路に、十人ほどの敵が立ちふさがる。
それを見たアレクシアは右手の手のひらをその集団の方に向けて、淡い光を手から生み出した。
すると苦痛に顔を歪めて、少しずつ前屈みになって立ち眩みを起こし始めるその集団。
「ぐっ……!?」
「お、おい……どうした……?」
「くっ……き、貴様ら……俺たちに何をした!?」
「いや、俺は何もしてないが……?」
リュディガーは一切手出しをしていないので、その集団の状態変化に対して何が起こっているのか分からない。
しかし、集団の苦しみは強くなる一方である。
「嘘をつくんじゃない!! ……だ、だったら、なんで俺たちの魔力が無くなっていくんだ……!?」
「えっ?」
魔力が無くなる、という敵のそのセリフに、思わずアレクシアの方に目をやるリュディガー。
「ま、まさかアレクシア……」
「くそ……ぐっ!」
リュディガーが何かに気が付いている間に、敵の集団が全員意識を失ってドサリと地面にうつ伏せに倒れ込む。
その原因不明の体調不良の答えは、アレクシアの繰り出した補助魔術である。
『吸魔の魔術だ。相手の魔力を奪い取り自分のものにすると同時に、自分の魔力を回復させるんだ』
「な、なんだかとてもラッキーだけどとにかく助かった。これで俺たちは無駄に戦わずに済んだ訳だから、後は何とかしてあの逃げていった眼鏡の男を探さなければな」
吸魔の影響を受けないリュディガーの発したその言葉に、アレクシアも頷いて再びフェリシテ奪還に向かう。
まずはこの地下アジトのどこかにいるであろう彼女を見つけて、それからここを脱出しなければならない。
が、あの連中がねぐらにするために複雑に設計されたまるで迷路のような場所であるからこそ、一筋縄ではいかないかもしれない。
そう考えるリュディガーの斜め前で、ふとアレクシアが足を止めた。
『そのままあそこのドアを開けて、右の方に進もう。その先に大きな扉があるから、そこを開けてまっすぐ進めば小部屋にたどり着く』
「小部屋には誰かいるのか?」
『ああ。……これは人間の気配だな』
「人間だと?」
敵か味方かはわからないが、こうした小部屋がほかにもいくつかあるらしい。
とりあえず先に進んで、その小部屋を見回ってみながら最深部を目指すことにする二人。
『わらわの言う通りにしてくれれば、そなたが求めている人間と再会出来るかもしれない』
「そうだといいがな」
もしかしたら、その小部屋にとらわれているのが先ほどのフェリシテという可能性もある。
そこでリュディガーは、こんな質問をアレクシアに対してぶつけてみる。
「その人間っていうのはどんな容姿をしているかわかるか?」
『……いや、すまないがそこまではわからん。あくまでも人間かその他の動物かの判別しかできない』
「なら仕方ない。このまま進むしかないな」
正直な話、アレクシアのその能力には半信半疑だが何も手掛かりが無いよりはマシだと考えて、とりあえずその声に従って進むリュディガー。
便利なのか不便なのか微妙なもんだなと思いながら進むと、やがて彼女が言う通り一つの扉の前に辿り着いた。
『ここか……』
「良し、開けよう」
『用心しながらだぞ』
窓もないのでドアの向こうの様子が見えないが、錠前がかけられているのを見るとどうやら独房のような場所らしいと判断したリュディガーは、ソードレイピアで錠前を切断。
すると、その中には衰弱した一人の女がいた。
「……誰?」
「俺たちはこのアジトを壊滅させに来たんだが、お前こそ誰だ?」
「壊滅ですって?」
リュディガーのセリフによってどこかうつろだったその女の目に、少し輝きが戻る。
そして彼女はこう言ったのだ。
「だ、だったらお願い! 私の仲間もここにたくさんいるの! このままじゃ私たちが全員奴隷として売り飛ばされちゃうわ。一緒に助け出して!」
「ああ、いいぞ」
『その前に回復魔術をかけてやろう』
どうやらこの女は敵ではないと判断したリュディガーは、その女とともにアレクシアの後に続いて仲間の救助を目指す。
自分たちの目の前を走る女は何の迷いも躊躇もなく右へ曲がり、左へ曲がり、非常にスムーズに通路を走り抜けて行く。
「迷いがないわね。あの人、いったい何なの? 私の疲れも空腹も一瞬で治しちゃったし」
「俺にもよくわからない」
「何よそれ。でも……助けてくれてありがとう」
リュディガーとともに彼女を追いかけて走っている女は、そのスムーズなアレクシアの足取りに対して驚きを隠せなかった。
「どこに行った!?」
「こっちには居ないぞ!!」
「向こうを探せ!!」
黒ずくめの集団が自分たちを探す声や足音を遠くに聞きながら、三人はテキパキと他の仲間たちを助け出していく。
そしてアレクシアの誘導で、その人間たちを出口に誘導し始めた。
『この先が裏口になるぞ。さあ早く!!』
「は……はい!」
アレクシアが扉の先を確認して、後ろの人間たちに報告する。
しかし、まだリュディガーたちの戦いは終わっていなかった。




