176.感動の再会
そう言うエルヴェダーの背中に乗せてもらったリュディガーとウェザートは、てっきり火山の麓まで下りていくのかと思っていた。
しかし実際は研究所のある側から裏に回り込んでいき、そこにある大きめのほら穴にたどり着いたのである。
『ほら、そこだ。この辺りは魔物がいねえから身を隠すのにうってつけさ』
「こんな場所が……」
この火山の「本当の」ヌシであるエルヴェダーは、着陸できる場所に慣れた様子で着陸してから人間の姿になった。
眼も髪も燃えるような赤色で、上下ともに赤を基調とした服装をしている若い男の姿だった。
そんな彼が案内してくれたやや大きめの洞穴は、確かに彼の言う通り周りに魔物もおらず、人間が隠れるには好条件であった。
そしてウェザートとともにその中に進んでいったリュディガーは、とうとう目的の人物に再会することができたのだった。
「……リュディガー……?」
「フェリシテ!!」
俺様が戻るまでここから動かないようにとエルヴェダーに指示されていたフェリシテは、やってきたのがてっきりそのエルヴェダーだとばかり思っていた。
それがまさかの、久しぶりに顔を見ることになった自分のパーティーのリーダーである男の姿だったからである。
実際の時間で言えばそこまでの日数は経っていないのだが、フェリシテにとってもリュディガーにとってもかなり長い時間だったように感じるのは、きっと気のせいではないのだろう。
そしてリュディガーの姿を見たフェリシテの両目から、ジワリと涙が溢れてきた。
「う、うう……うあああああん!!」
「……っと!!」
気が付けばフェリシテはリュディガーに向かって駆け出し、抱き着かれた男の方はその小柄な身体を両腕でしっかりと抱きしめる。
力強い腕の中で泣き始めるフェリシテは、今まで会えなかった時間の中の思いの丈をリュディガーに向かって吐き出し始める。
「怖かったぁ~~~!! どーなっちゃうかと思ったぁ!! 本当に私、あいつらにどうにかされちゃうんじゃないかと思っててぇ~~!!」
「フェリシテ……」
安心感で今まで抑えていたものが一気に噴き出してしまったからなのか、フェリシテの勢いは止まらない。
しかし、このままここで再会を喜んでいるわけにもいかなかった。
それはリュディガーが研究所に残りの仲間を残してきてしまったこともそうなのだが、実はエルヴェダーの事情もあるのだ。
『あー……その、感動の再会って時に悪いんだけどよぉ、ちょっと俺様の話を聞いちゃくれねえか?』
「どうした?」
『その、な? 実はお前たちに頼みてえことがあるんだけどよ』
こんな時に一体何を頼もうというのか?
それはリュディガーやフェリシテだけではなく、蚊帳の外にいるような気分になっていたウェザートも同じ気持ちだった。
そんな人間たちに向かって、エルヴェダーはとんでもないことを言い出した。
『俺様と一緒によぉ、シュアまで来てほしーんだよな』
「シュア?」
「え、シュアってあのファルスの隣にある魔術王国のことですか?」
魔術師としてはあこがれの地ともいわれるぐらい、この世界では魔術に関して最先端の技術力を持っているのがシュア王国。
そこに一緒に来てほしいというのがエルヴェダーの頼みなのだが、またどうしていきなりそんな話をし始めたのか?
その内容というのが、感動の再会を喜ぶ空気が一気にぶち壊されるには十分すぎるものだったからだ。
『シュアが謎の生物によって襲撃されてんだよ』
「へ?」
『だから、シュアの王都が謎の生物の手によって襲撃されてんだ。しかもそいつには魔術が全然効かなくてよぉ……それで俺様が直々にシュアに乗り込もうと思ったんだが、こういう場所にドラゴンの俺様が直接出ていくのはダメな話なんだ』
「ちょ、ちょっと待ってくれ。理解が追い付かないんだが……それはつまり、俺たちにシュアの争いを止めてほしいのか?」
『ああ。だからこの人間の姿になって近づこうと思ったんだが……どーもその生物ってのが、魔力を持っている生物を感知して攻撃を的確に当ててくるみてえでさ。俺様は特に魔力が多いから、うかつに近づくこともできやしねーんだ』
しかし、魔力を持たないリュディガーであればその謎の生物に近づくことができるかもしれないと予想するエルヴェダー。
この赤いドラゴンは自分が担当している看視地域が、今いるこのエスヴェテレスとそのシュアの二か国なのだという。
なので世界の魔術を担っているような国の、それも王都がいきなり襲撃されて黙っていられないのだが、ドラゴンがうかつに人間たちの争いに関わってはいけないということと、魔力に関するその理由から自分ではお手上げらしい。
そこでリュディガーにお鉢が回ってきたわけなのだが、まずはこのエスヴェテレスでの話を全て終わらせなければならないので、いったん研究所で仲間たちと合流してから帝都に戻ることにしたのだった。




