173.邪魔するあの敵
「あ、あれは!!」
「くそっ、こんな時に……!!」
驚きを隠せないウェザートと、またしても自分たちの邪魔をするのかと歯ぎしりをするリュディガー。
よりによって、どうしてこんな時に限って?
そんな疑問を抱くリュディガーの目の前に現れた、バッサバッサと翼を動かして炎をまき散らしながら降下してくる、熱気に包まれたその生物。
この火山のヌシであるフェニックスが、グレトルとの決着をつけようと思っていたリュディガーとの間に乱入してきたのだ。
「本当はグリスを殺されたって聞いたときに、お前をぶっ殺してやりてえって思ったんだがよ……ニルスの奴からまだ殺すなって言われてんだ。でも、こんなヌシに殺されたんだったら俺のせいじゃねえからなあ?」
「逃げる気か!」
「そーだよ。まあ、俺の手でぶっ殺すまでは生きてろよな。かつての仲間殺しさんよぉ!!」
「待てっ! フェリシテの居場所を教えろ!!」
待たせておいたワイバーンに乗って逃げる態勢に入ったグレトルを追おうとするが、その前にまるでグレトルを護るかのように立ちはだかるフェニックス。
身体全体が溶岩でできているかのようにドロドロとしているものの、普通に空を飛んでいる限りでは間違いなく生物である。
リュディガーとウェザートがそのフェニックスによって足止めを食らっているうちに、グレトルがワイバーンで飛び去ってしまったのだ。
「くそ、フェリシテの居所もわからないままだぞこれは!!」
「仕方ありません、私たちはこのフェニックスをどうにかして倒すか、振り切るのを最優先にしましょう!」
しかし、ワイバーンと同じくらいの大きさがあるフェニックスを相手に真っ向勝負を挑むのはハッキリ言って無謀である。
さらに言えば、見ての通り全身が溶岩の炎によって燃えている状態なのでリュディガーがソードレイピアの攻撃を当てたところで、ソードレイピアの刀身が溶けてしまうのがオチである。
ウェザートの魔術だけでしのぎ切れるかとリュディガーが問いかけてみるが、彼は逃げ出しながら首を横に振った。
「さすがに私一人では荷が重すぎます。情けない話ですが、あれを相手にするのであればそれこそウォルトーク副騎士団長と一緒に挑まないと無理でしょう。もしくはあなたが連れていた精霊のアレクシアさんとかの力が必要です」
「だったら逃げるしかないな!」
研究所から出たところは街道と平原が広がっているだけで、この開けた場所ではフェニックスがリュディガーとウェザートの二人に狙いを定めるのは容易である。
そうなると、目に見える場所でフェニックスの魔の手から逃れられそうなのは、火山の頂上に向かって伸びている細い登山道ただ一つであった。
「とにかくあの登山道を登って行きましょう! ここにいるよりかは安全です!」
「そ……そうだな!」
この時ほど、自分が魔術が使えないことを憎んだことはなかった。
リュディガーはその憎しみと悔しさを胸にしながら、フェニックスにやられてたまるかと登山道に入っていく。
さすがに細い登山道の上に、上空からだと木に遮られてリュディガーとウェザートの姿が見えない状態のため、フェニックスもどこを狙っていいかわからずただ単にうめき声が聞こえてくるだけにとどまっている。
しかし一か所に留まったままだといずれバレる可能性もあるので、とりあえずこのまま頂上まで登ることにしたのだった。
その途中でふもとの研究所の中に残してきてしまったアレクシアたちに魔晶石で連絡を入れてみるリュディガーだが、通信を入れてみてもまるで応答がない。
「……駄目だ、つながらない」
「向こうはまだ戦っている可能性がありますね。それと、この木に遮られている登山道の構造が魔力の飛び具合を厳しくしている可能性があります」
ウェザートいわく、魔力というものは遮蔽物があるとうまく飛んでいかないのだという。
探査魔術は指定した範囲全体に魔力を巡らせて発動するものなので、壁があろうとなかろうと効果を発揮する。
しかし普通の攻撃魔術や防御魔術などは、壁の向こう側にいる敵に当たることはなかったりするのだ。
魔力がもともとないリュディガーにはさっぱりわからない話だが、とにかく通信がつながらないことはわかったので、このまま頂上に向かって進んでいくだけ……。
「うおおっ!?」
だけと思いきや、フェニックスが上空から火の粉をまき散らしてきた。
いくつかの開けた場所が休憩地点として用意されており、そこに姿を現したリュディガーとウェザートを狙って攻撃してきたのだ。
それだけではなくその大きな肉体で突進攻撃も仕掛けてくるので、二人は相手にせずにさっさと木で遮られている道の先へと飛び込んでいく。
また、この山も魔物たちの棲み処となっているので道中に出現する魔物も相手にしなければならない状況だった。
「はぁ、はぁ……この登山道ってなかなか傾斜がきつい上に、火山だから地面が熱いな……」
「ええ。とにかく上まで登ってしまいましょう!」
だが、頂上まで登り切った二人を待ち受けていたのは驚愕の展開だったのだ。




