172.男たちの戦い
『すまないトリス、地形を動かして援護しようと思ったのだが、そなたにまで影響が出ることを考慮するとできなかった』
「いいのいいの、気にしないで。それよりもフェリシテと……それからお兄ちゃんとウェザートさんを捜さないと」
「あー、それもそうか」
何とかセレトを倒したトリスと、セレトの部下たちを全滅させたアレクシアとエスティナだったが、肝心のフェリシテがまだ見つかっていない。
さらには治療に向かったリュディガーと、彼を連れて行ってくれたウェザートもまだ戻ってきていないので、アレクシアがどこにいるのかを探査魔術で確認してみる。
『……うーむ、これが止まったままでそれ以外の魔力は動いている状態か。治療中のそれらしき魔力の反応は一つ見えるが、リュディガーは魔力がないから探査魔術に引っかからないのが辛いな』
「じゃあ、それらしき魔力の反応がある場所に行ってみましょうよ!」
「そうよ。それがお兄ちゃんかもしれないからね!」
そう考えた女たちは、治療が終わっているかもしれないリュディガーと合流するべく、アレクシアがその魔力を感じる方へと向かって進み始める。
しかしそのころ、リュディガーとウェザートの二人は別の場所へと進むことを決めていた。
「あの男ですよね!?」
「ああ、そうだ……あいつが似顔絵の男そのもののグレトルって奴だ!」
治療も終わってアレクシアたちの元へと戻ろうとしていたリュディガーとウェザートだったが、その途中でどこかへ向かおうとしているグレトルの姿を発見した。
ここで会ったが絶対に逃がすわけにはいかないので、二人はグレトルの後を追いかけながら時折り出てくる黄色いコートを着ている人間たちを倒して進む。
また、それとは別にエスヴェテレスの制服と鎧を着込んでいる人間たちが襲いかかってきたり、なんとヴィルトディン騎士団の制服と鎧を着込んだ人間たちまで襲いかかってきた。
それもこれも、全てはきっとニルスが絡んでいるのだろう。
なぜならここにグレトルがいること自体が、わざわざ言葉で言わなくてもそれを証明してくれているのだから。
「ヴィルトディン軍の格好までさせて、一体何をしようとしているのか……考えただけでもわかるというものだ」
「私もですよ。我がエスヴェテレスの格好をさせてヴィルトディンに戦争を仕掛けようとしていた以外にも、もしかしたらヴィルトディンが先に戦争を仕掛けてきたという既成事実を作るためにこういう格好の人間たちを集めていた……と考えれば実に自然です。
どちらにしても、この段階でここにいる連中を食い止められなければきっとエスヴェテレスに……いや、ヴィルトディンにも大きな被害が出てしまうだろう。
ここで情報収集をしてわかったことは、別の場所で精製した麻薬を使って、捕まえてきた奴隷たちにそれを注入する。
それからエスヴェテレス騎士団の格好をさせてヴィルトディンに向けて送り込み、各地で騒ぎを起こさせる。
当然「本物の」エスヴェテレスには何の関係もないのだが、ヴィルトディンにとってはエスヴェテレスが大軍で各地に侵攻してきたとしか見えないので、結果的に両国がぶつかり合う戦争が引き起こされる。
「そして両国を弱らせたところで、お前たちが両軍とも殲滅させて自分たちの支配下に置く……そうだろう?」
「はっ、なかなか頭が回るじゃねえか。それで大体当たってるぜ」
研究所の外に出たところで、ワイバーンで逃げようとしていたグレトルをウェザートがエネルギーボールで足止めし、その疑問をリュディガーがぶつけるとこういう答えが返ってきたのだ。
つまり、自分たちの手はなるべく汚さずに両国をぶつけて疲弊させるという壮大な計画だったのだが、そこでリュディガーたちという邪魔が入ったことで計画が潰えてしまうことになった。
しかし、グレトルはここで二つの間違いをリュディガーとウェザートに指摘する。
「でもよお、間違いが二つあるぜ。一つは俺たちは自分の手をかなり汚してるってことだ」
「どういう意味だ?」
「そっちの魔術が使える奴ならわかると思うけどよぉ、エスヴェテレスの格好してる奴らもヴィルトディンの格好してる奴らも、ほとんどはラーフィティアからやってきたパラディン部隊の奴なんだよ」
だから奴隷として捕まえてきた奴らのほかに、パラディン部隊の奴らが命を懸けて戦ってくれてるんだと自慢するグレトルだが、麻薬をその人体に注入している時点で人間の命を軽々しく考えているのは間違いない事実だった。
「そしてもう一つ。俺を捕まえようと思っているってことだ」
「何だと? 逃げ切れるとでも思っているのか?」
険しい表情を見せるリュディガーに対し、グレトルは余裕たっぷりの表情でこう答えた。
「ああ。お前は天敵の存在を忘れてんぞ、リュディガー」
「天敵? それはお前のことだろう」
「いいや違うね。天敵は……ああ、ちょうどよく来てくれたぜ」
そう言いながら空を見上げるグレトルの視線の先。
そこには確かに、天敵と呼べる存在があった。




