169.問題だらけの研究所
(ここもかっ!!)
道中は無事に何事もなく火山へとたどり着いたリュディガーたちだったが、その研究所の中は問題だらけだった。
何の研究をしているかわからないが、とにかく研究所という名前がついているだけあって、魔術を使ってくる魔術師の数がやたらと多いのである。
それはアレクシアとウェザートが中心になって戦ってくれているのだが、それ以外にもリュディガーたちの敵になるものがあった。
(暑い……)
そう、ここは火山の麓にある研究所。
アレクシアとウェザートの分析いわく、そのいろいろな研究に必要となる各種エネルギーについても、火山から発せられている熱を利用して効率の良さを実感できるものとなっている。
『反面、その熱エネルギーを逃がしきれていないみたいだな。どう考えてもこの暑さはその逃がせていない熱によるものだ』
「でしょうね。私たちは魔術で涼しさを感じることができますが、リュディガーさんは見ての通り汗が滝のように流れていますから……」
リュディガーは二の腕まで覆う青い皮の手袋をはめ、太ももの中心まで到達する長さのこれまた青い皮のブーツを履いている。
さらにはマントも胸当ても装備しているだけあって、下手するとこのまま脱水症状を起こしかねなかった。
不幸中の幸いというべきか、研究所の方でも研究員たちの脱水症状を懸念してか水分補給のために水道が至る所に設置されているので、そこで水分補給をしながらの戦いとなっている。
「俺ならさっき水分補給したから問題ない。それよりもこの研究所は、どうやら以前戦った感情のない人間を作り出すための場所らしいな」
今まで戦ってきた中で、この研究所の実態についていろいろと目にするものがあった。
成人の男女がスッポリと入ることができるだけの大きさと高さを持っているカプセル。その中に見える人間「寸前」の未完成の生物。
明らかに普通の生殖活動で生まれる人間ではなく、人工的に創り出された人間を模した生物である。
この完成体にエスヴェテレス帝国騎士団の制服と鎧を着せて、エスヴェテレスを装ってヴィルトディンに攻め込ませれば、自分たちに疑いの目を向けられることがなく、人件費もなるべく抑えられて二国間の戦争を誘発することができる。
それがこの研究所の目的らしいのだが、ではどこの誰がこれだけの設備や人員を用意したのだろうか?
「ここは三年前に設備の老朽化が原因で解体が決まったはずなのですが、なぜこうして動いているのか……」
ウェザートがまず、この研究所の現状について首を傾げる。
国が依頼した解体業者によって、完全に解体されたとの報告書が国にキチンと上がってきていたはずなのに、現状でこうして面倒くさい敵の巣窟として利用されている。
ということは、その報告書の内容がまるで嘘だったということになってしまう。
「確か三年前に解体が始まったとかって話だったわね。そうなるとそれって、三年前からずっと国の人たちが現地に視察とか行ってなかったんですか?」
「いえ、城の関係者がこちらに来ていたはずなのですが……」
『それってもしかして、こっちの敵に取り込まれたりしていたのではないか? 現にこうやって敵の巣窟になっている上に、様々な研究をできる場所になっている。それらが全て虚偽の報告になって上がってきているわけだから、そうとしか考えられないぞ』
いずれにしても、ここに集まっている多くの敵を倒さなければならないというのは、襲いかかってくる人間たちの存在でわかっているリュディガーたち。
その中でも気になることが二つあった。
「黄色いコートを着込んでいる人間がやたら多いけど、暑くないのかしら?」
「お兄ちゃんじゃないから、多分魔術で体温を調節しているんだと思うわ。でも……動きが何だか変……」
トリス曰く、うまくは言えないのだが向かってくる敵たちはまるで感情がないかのように、こちらに対して臆さず向かってくる。
女の比率が多いから強気に出ているのか、それとも元々感情がないのか。
リュディガーたちが考えられるのは後者だった。
「不思議な魔力を感じますね。どうやら何者かに操られているような、そんな気がします。目の奥に光がありません」
「自分の意思で動いているわけじゃないってこと……?」
『恐らくはそうだろうな。そして何より、この研究所の中からもかすかではあるがラーフィティアの魔力を感じられる』
あの地下牢獄で戦った黒と白のコートの集団といい、ここにもラーフィティアの闇が侵食してきているらしい。
つまり敵が臆することなくこっちに攻撃を仕掛けてくるので、一言でいうと面倒くさい敵を相手にしていることになる。
そしてあの地下牢獄の壁にリュディガーが見かけた目標の掲示が、この先の戦いで今回のエスヴェテレスとヴィルトディンのいざこざの真相を解く大きな鍵になるのであった。




