16.やっぱり……
そして、その不安は現実のものとなった。
「敵襲です! 総員、迎撃開始!!」
眼鏡の男の叫び声で、次々に武装した集団が地面の中から姿を現した。
どうやらこの辺り一帯には無数の地下への出入り口があるらしく、そこに誘い込まれる形で突っ込んだ大勢の騎士団の団員たちは、まんまと自分たちが追い込まれる状況になってしまった。
もちろん、ただのならず者相手に戦闘のプロ集団である騎士団の勝利は確実かと思われたのだが、次第に何だか様子がおかしくなってきた。
(おいおい、あいつらは結構強いんじゃないのか……?)
武器と武器が合わさる金属音が響き、魔術や矢が飛び交う中で徐々に騎士団側が黒ずくめの集団によって制圧され始めたのだ。
黒ずくめの集団の方も騎士団の手によって駆逐されてはいるのだが、意外と黒ずくめの集団は統率が騎士団よりも取れているようで、次第に騎士団を劣勢に追い込んで行く。
そもそもこの周辺をテリトリーとしているだけあって、やってきた騎士団を上回る人数の黒ずくめの集団のメンバーがまだまだいたようで、結局先ほどのフェリシテという女を残して騎士団は壊滅してしまったのだった。
(嘘だろ!? いくら人数差に分があるからって、現役の騎士団の部隊を打ち負かすなんて……)
となれば、黒ずくめの集団は少なくともここにやって来た騎士団以上の実力を持っていると見て間違いはなさそうだ。
そう考えているリュディガーの目の前で、眼鏡の男率いる黒ずくめの集団は今しがた返り討ちにした騎士団員達や仲間の死体を、誘い込んだ広場の片隅に置いてある大きな荷車に次々に載せていく。
どうやらどこかでまとめて処分するつもりらしい。
だがその作業に集中するあまり、こっちに気がついている様子は見られないので、今が目立たないチャンスだと判断。
そう考えたアレクシアは、あのフェリシテという女だけでも助けようと一気に動き出す。
足音をさせないように少しだけ宙に浮かびつつ、左手の中に魔力を結集させていく。
それはやがて、パリパリと音を立てる魔力のエネルギーボールとなった。
『……はっ!!』
正確無比なコントロールによって、エネルギーボールが眼鏡の男めがけて飛んでいく。
しかし、そのエネルギーボールは眼鏡の男の部下がタイミングよく出てきてしまったため、その部下に当たるだけで終わってしまった。
もちろん、その犠牲によって眼鏡の男たちに奇襲がバレてしまったのだった。
「あの二人、まだ私たちを狙って……!?」
即座に反撃をしようとしたものの、これはもしかしたらチャンスかもしれない、と頭の中で計算した眼鏡の男は魔術を繰り出そうとした手を止めて、近くの出入り口から地中に潜っていく。
フェリシテもそのまま連れていかれてしまったので、リュディガーとアレクシアは二人を追いかけて地下へと逆戻りすることとなった。
「おいアレクシア、ここの地下については詳しいのか?」
『すまないが、わらわは存じ上げない』
「だったら行き当たりばったりで進むしかなさそうだな!」
あの女がこれから何をされるのだろうか。
乗り掛かった舟だけあって、それ以上のことが容易に想像できてしまうリュディガーとアレクシアは眼鏡の男を必死に追いかける。
だが、土地勘は向こうにあるのですぐにその背中を見失ってしまった。
「……くそ、逃がしたか」
拳を握り締めてギリッと歯ぎしりをするリュディガーだが、一方のアレクシアは涼しい顔をしていた。
そして、人間にはなかなかできないことをいとも簡単にやってのけるらしい。
『わらわに任せろ』
「何か策でも?」
『ああ。今からこの地下施設全域を把握する。しばし待て』
そう言うとアレクシアは壁に両手をついて目を閉じて、じっと気を集中させ始めた。
そのまま壁に向かって魔力を送り込み、岩壁を粗く削って造られただけのこの地下アジトの全貌を把握していく。
そして三十秒ほど経ち、すっと目を開いた彼女はよどみなく完璧にこう言った。
『あの眼鏡をかけた男の居場所がわかった。わらわについてこい』
「わかるのか?」
『わからなければ先導などしない。ただし、道中には見張りらしき敵もまだたくさん巡回しているようだから、その時は戦闘を一緒に頼むぞ』
彼女いわく、この地下通路は粗削りで造られたにしてはそれなりに広いらしい。
それゆえに敵の数もそこそこいるのだと把握した彼女だが、彼女にはもう一つ気にかかることがあった。
『それから……この地下施設の中には小部屋がたくさんあるのだが、そこに捕らわれている人間たちも数多くいる様だ』
「えっ、それってあの連中がここに誘拐してきた人間ということか?」
『恐らくそうだろうな。まあ、魔力の動きや場所を探っただけだから確証は持てないが、とにかく行くだけ行ってみるとしよう』




