158.この場所の実態
別にいつもの武器がないからといって、リュディガーはまったく戦えないわけではない。
騎士団仕込みの体術と我流の体術をミックスさせた戦い方だって出来るし、ソードレイピア以外の武器だって使えるので、とりあえず今しがたあの部屋に放り込んでおいた男の持っているロングソードを拝借して進む。
地下牢獄の中にはさっきの男の仲間が居る可能性が高いため、リュディガーは用心しながら急ぐ。
実際途中で何人かの部下と遭遇してしまったのだが、リュディガーはその度に隠れてやり過ごしたり、または相手の頭を壁にぶつけまくって撃退して難を逃れる。
ここで無駄にエネルギーを消費するわけにはいかなかった。
自分にとってはここからが改めて本番だろうと思うリュディガー……だが。
「おい、何だおま……ぐお!!」
またもや内部の敵に見つかった。
もちろんリュディガーもはなっからこうした戦いを覚悟していたので、援軍を呼ばれる前にさっさと男の心臓をロングソードで一突きして黙らせる。
見つかったのであれば、もう遠慮する必要も躊躇する必要も戸惑う必要もないわけだ。
通路を曲がったところに居る男が彼に気づいてナイフを振り被って向かって来たので、先にそれをロングソードで弾いてから、男の身体を持ち上げて地面に投げ落とす。
「ねえねえ、何……ぐぇ!?」
その異変に気がついた女がそばのドアからダルそうに出て来たので、そのままダルくなっててくれとばかりに、リュディガーはドアを全力で蹴ってドアに女を挟んで気絶させた。
地下牢獄の通路はお世辞にも広いとはいえないので、前後を囲まれてしまえばそれだけで逃げ場がなくなってしまう。
それだけは避けたいので、リュディガーはさっさと自分の仲間である四人の女たちと私物を探し出すことを最優先に考える。
(最後に脱出する時が大変そうな気がしないでもないんだけどな)
脱出するまでが救出任務の全部だ。
ギルドから依頼されたわけでもなければ、別に金銭面での報酬があるわけでもない。
しかし、これはリュディガー自身が絶対にやり遂げなければならない任務であることには間違いなかった。
「ふあ~ぁ……んっ……?」
その時またもや、ダルそうに通路のそばのドアから出て来た男がリュディガーの行く手を阻む。
今度はドアを蹴り飛ばす前に通路を塞いで男が立つ構図になったので、ダルそうな上に眠そうなその男の意識が回復する前に男の腹を蹴る。
「ふんっ!!」
「ぐぅえ!!」
前屈みになった男のアゴを、自分の左手を固く握って作った拳を利用して思いっ切り下から上へと殴り上げる。
意識が一瞬飛んだその男の懐に飛び込んだリュディガーは、先程地面に投げつけた男と同じく大柄な自分の体格を活かして男を持ち上げる。
そのまま通路を走り抜け、突き当たりの金属製の大きなドア目掛けて男の身体を放り投げた。
「なっ、何だぁ!?」
「てめぇ……さっき連行されて来た銀髪の奴か!?」
ドアの先にあった部屋の中では、いかにも柄の悪そうな男も女も関係ない人間が色々な作業をしていた。
一人の男が発したセリフによると、どうやら自分がここに連行されて来たことは敵全体に知れ渡っている様だと把握する。
その時リュディガーがふと壁の方を見てみると、そこには恐ろしいことが記載された張り紙が貼ってあった。
『今月の奴隷捕獲目標:人間二百人分。幻覚剤と興奮剤の合成麻薬含む』
それを見た瞬間、リュディガーの中で自分の何かがブチッと音を立てて切れる。
ここはどうやら、自分たちを含めた人間たちを奴隷として売りさばく場所だとわかってしまったからだ。
「お前たち……恥ずかしくないのか?」
「ちょっと、いきなり乗り込んできて意味わかんないんだけど!?」
何かに切れてしまったリュディガーは、最初に向かって来た近くの女に対して思いっ切り高い位置への蹴りで顔面を蹴りつけて気絶させる。
女の身体から力が一気に抜けて、後ろに向かってゆっくりと倒れ込んだ挙句にものすごい音を立てて後ろにおいてあった木箱を粉砕して気絶した。
「てっ、てんめえええええええっ!!」
残っている男女が作業を中断して一気に襲いかかってきた。それでもリュディガーは怯まず、次に向かってくる男に向かって飛び上がって蹴りを入れる。
蹴りによって飛んでいった男には目もくれず、右からやってきた男の顔面に右回し蹴り。その勢いのまま三人連続で右回し蹴りを食らわせて一人ずつ撃沈していく。
「くっ……!!」
女がナイフを振り被って向かって来たが、さっきと同じくロングソードを振るって弾いてから女の身体を持ち上げて、その後ろから走って向かってきていた男に向かって投げつけてまとめて倒す。
作業のためにテーブルや木箱などがところ狭しと並べられており、それで敵の集団の移動が制限されていたことがリュディガーにとっては好都合だった。
しかし、まだ他にも敵はいる。
その証拠に部屋の奥には別の牢獄区画に続くドアが設置されており、その奥からもバタバタと慌ただしい音が聞こえてくるからだ。
(こうなったらとことんやってやる!!)
もうこうなったら先に進むだけ。
リュディガーはロングソードを構えつつ、そのドアの奥の通路に向かって駆け出した。




