152.かつての仲間との闘い
グリスはなおもしっかりとリュディガーに狙いを定めて襲いかかる。
魔力がないリュディガーには、霧がかかっているとはいっても実際にどんな状況なのかがさっぱりわからない以上、グリスが迷いなしに向かってきても何ら不思議ではない。
しかし、グリスは先ほど自分が飲み干したビンの液体の効果をヒシヒシと肌で感じていた。
(これがリュディガーの見ている世界って奴か。確かに、今までは三歩先も見えなかったような濃い霧が今ではすっかり晴れている。これなら全然戦えるぞ!!)
今までにない高揚感に包まれながらロングソードを振るうグリスだが、リュディガーも今までの冒険の中で培ってレベルアップした剣術で対抗する。
そして二人の距離がいったん離れ、リュディガーとグリスの二人は改めて、ソードレイピアとロングソードをそれぞれ手にして向かい合う。
だが、リュディガーにはどうしても気になっていることがあった。
「……迷いがないな。何かしたのか?」
「さあね。僕から言えるのは、君を殺すのに迷いがなくなっているってことだけだよ!!」
せっかくニルスが開発してくれた、体内の魔力を一時的になくす薬を飲んだことをバラすわけにはいかない。
もちろん、魔力がなくなったことによって魔術が使えなくなってしまう欠点こそあるものの、時間が経てば元通りに復活するのでそれまでにリュディガーを仕留めてしまえばいい。
その考えで、向かい合った状態から先に踏み込むのはグリス。
「攻撃こそ最大の防御」を地で行く彼の剣術は、攻めて攻めて攻めまくる「押し」のスタイルである。
リュディガーは逆に余り前に出ないスタイルで、反撃のチャンスをじっと窺う。
割と大振りなグリスの攻撃をブロックし、避け、そのモーションから次にどんな攻撃をしてくるのかを予想して身体を動かす。
(思っていたよりもスピードも遅いし、攻撃も大振りだが……)
まだ彼は本気を出していない。
わざと大振りな攻撃を繰り出すことで自分の様子を窺って、どういう戦い方をするのかを見定めているのだろう、とリュディガーは判断した。
パーティーを組んでいたころから今のこの戦いの時点まで、剣術の実力でいえばグリスの方が上だと考えているリュディガーは、真っ向勝負では勝てないと悟る。
どうしたものかと考えるリュディガーに、反撃のチャンスがやって来たのはすぐのことだった。
「おらっ!」
横薙ぎのモーションを利用して左の回し蹴りを繰り出すグリスだが、隙が明らかに大きい。
その回し蹴りを上半身を屈めて回避し、一気にタックルでマウントポジションを取りに行くリュディガー。
しかし。
「……!?」
マウントポジションを取られた筈のグリスの口に、それと分かる大きな笑みが浮かんだ。
リュディガーが戸惑いと驚き、そして少しの恐怖に一瞬動きが止まったのを見逃さず、グリスはリュディガーに強烈な頭突きをお見舞いした。
「ぐおっ!?」
思わず反射的に後ろに飛び退くリュディガーだが、頭突きの痛みを逃がそうと手で頭を押さえる。
そんな彼の両肩に自分の手を置き、グリスは自ら後ろに転がりながら足をリュディガーの腹部に押し付け、勢いをつけてリュディガーを投げ飛ばした。
「ぬあっ!」
浮遊感を身体に感じた直後、その下の地面に叩き付けられる形になったリュディガーは、余りの衝撃に一瞬呼吸が止まった。
「がは……っ!?」
「ふんっ!!」
息苦しさに身悶えしつつも何とか目を開けたリュディガーのその目に映ったものは、自分に向かって躊躇せずにロングソードを振り被るグリスの姿だった。
やはり自分は役立たずの存在なのか。
考えてみればグリスは戦いが始まってから一度も魔術を使っていない。ということは、剣術での勝負でも負けてしまうのだろうか。
(……いや、そんなことはない。お前はもう仲間ではない!!)
敵だ!
その敵に対して何を遠慮する必要がある?
リュディガーはカッと目を見開き、素早く横に転がってロングソードの凶刃から逃れるとともに、攻撃に夢中で無防備になっているグリスの両足めがけてソードレイピアを振るう。
「ぐぅあ……!?」
両足を切断するまでにはいかなかったものの、かなり深く両足ともにザックリと斬られてしまったグリスは思わず両ひざをつく。
その間に立ち上がったリュディガーは、両足の痛みに悶えて隙だらけのグリスの胸めがけて、レイピアでもある自分の剣先を突き刺した。
「ぐふっ……!?」
胸を突き刺され、口から血を吐き出したグリスは目を見開いてそのまま力なく絶命する。
何とかこうして決着をつけたリュディガーだったが、それと同時にこの戦争がどんな理由で引き起こされたものなのかわからなくなってしまったのも事実だった。




